&Greenでは「山と生きる」をテーマにとにかく「山が好き」「トレイルが好き」「自然が好き」というライターさんたちに執筆していただいてます。それぞれが山やトレイルに対して、どんな思いで、どんな出来事を体験して今に至ったのか直接聞いてみたい!!と思い立ち、「あれやこれや」と山のことを聞いてみることにしました。
第一弾は、&Greenの運営・管理もしている「山オタク」こと横田雄紀くんにインタビュー!!
大人びた雰囲気の中に、少年のような遊び心、青年のような野心や情熱を感じる彼が山に対する思いや考えはどんなものなのでしょう?とても楽しみです。
Q1.山が好きになったきっかけは何ですか?
もともと自然の中で遊ぶのが好きだったんですけど、それが山というフィールドになったきっかけというのがありまして。大学に入るといろんな団体が勧誘活動をすると思うんですけど、あれの一貫で大学から配布される団体一覧のような紙がありまして、そこである団体が「最低限の物資を背負って山を旅する」と、当時の僕にとって印象的な一言が書いてあって、その一言でやられました。
その団体を見に行ってみると、ものすごい長い期間の縦走やキナバル(東南アジア最高峰)への遠征の話を聞かされて、こんな活動ができる団体がこんな身近にあるんだ!って、感動してそこに入ったことがキッカケです。それが[ワンゲル]だったんです。18歳のときでした。
本業の勉学が怪しくなるほど山で遊んだ
Q2.どんな山に登りますか?
色々な山に登ると思いますが、具体的にどんな山か教えてください。
国内外関係なく興味が湧いた山に登る感じです。挑戦を求めないということではありませんが、百名山制覇したいとか、より険しくといった方向性の目標はないです。百名山に登りに行くこともあれば沢で遊んでることもありますし、ド下手くそですけど稀にクライミングもやります。最近は引っ越した関係もあってほとんど朝日連峰のあたりをウロウロしています。
ついでに、私たち初心者が登るときに向いてる山、向いてない山などを具体的に教えて下さい。
関東周辺だと丹沢の大山とか相模湖方面の陣馬山とかですかね。あとは高尾山のマイナールートとかですね。
これらはあくまで一例なんですけど、ポイントは、登山者数が多い、アクセスが良い、整備が届いていて道標やロープなど迷い防止の対策もよくされている、コースタイムも比較的短めなとこですかね。体力が少ない方でも登って帰ることができる。というところです。
Q3.山を始めるにあたっておすすめのブランドやアイテムはありますか?
アウトドアショップに行くと今流行りのウルトラライトをおすすめしてます。実際身軽で登りたいと思う反面、薄っぺらい生地に違和感も感じて・・迷ってしまいます。実際はどうなのか?初心者におすすめのブランドやアイテムはありますか?
見たことも触ったこともあるんですけど、あれを山の中で使うというのはほぼやったことがないのでなんとも言えないですね。ウルトラライトは軽いから100%おすすめってことはできないですし、逆に難しいものだから初心者はウルトラライトは使うべきでないとも言えないです。
「こんなペラペラでも大丈夫なんですか?」って聞いたら、店員さん、「すごい身軽なんでおすすめですっ!」て、「え?こわくない?」って言ってみると、「意外といけます(笑)」なんて言われたり。
山登りって「意外といける」って精神の使い所がすごく難しくて、意外と行けるって思ったほうが登れる山もありますし、そもそも意外と行けるって心構え自体が良くないという側面が発生する場面もある。コレ言うと周りの登山者の一部から「お前真面目かよ」って言われるかもしれないですけど、意外と行ける精神ってあまり良くないと思うんです。
「行けるっしょ」って思えば思うほど(※僕は)ヌケが色んなとこに出てくるので。「意外と行けるからこれをやる」とかだと、いざって時に対する意識が抜けている状態なんです。そして、なぜいけるのか、が感情止まりでその先の理論が抜けてるんです。なので、もし「意外と行けるっしょ」って感覚で選んで買うのであれば、そこはちゃんと考えたほうが良いと思います。
理論が先に来て勝算がある状態でも物怖じで先に進めないという状況の一部で「意外といける」精神の発動があると最後のケツたたきになって結果目的に近づくこともあります。しかしアドレナリンが出てるとその順序が無意識に逆になることがあります。ですからデフォルトの状態で「意外と行ける」精神は良くないものと認識するほうがより良い判断に繋がるのかなと。そこを自分なりにどう噛み砕いて使いこなすかが大事かと思います。目的にたどり着く手段の一つである装備選びにおいても同じだと、僕は思います。
ラオスにて、登山の延長線でルート上にあった洞窟にそのまま一人で入るも無知ゆえに迷いかけてしまう。この時にとった行動は何故か「フラッシュを焚いて自撮りをする」だったそう。こういうバカ野郎はド真面目にやっておくほうが丁度いいのかもしれないとのこと。「意外と行ける」は最悪をもたらすと身を持って学んだ瞬間。猛省したそう。※奇跡的に自力で脱出。反省も兼ねて恥晒し&写真を掲載。
Q4.最近、本屋さんや、ネットで「山用語」という言葉を目にします。覚えておいたほうが良い山用語ありますか?
登山をすると、普段登山をしない方からすると全く理解できない単語が飛び交うんです。ネットでも山用語辞典みたいなのはあるんですけど、絶対知っておいたほうが良いというよりも、知らないとそもそもやりにくいので用語全般を知っておいたほうがいいというような感じでしょうか。いろんなことを調べるにしても山用語をわかってる前提で書かれていることが多いですので。
Q5.初心者でも難しい山に登るケースが多いということについてどう思いますか?
私は山登りといえば、毎年ロープウェイなしで登っていた高尾山くらいの経験なんですが、それでも「あ、ここは急だから気をつけようとか、危ないから避けよう」と慎重になります。高尾山はとても登りやすく感じる山だとは思う反面、自分の行動で一歩間違えれば命を落としてしまう危険性に繋がります。家族や大切な人を思うと生半可な気持ちで登れない、だから私はずっと一箇所しか登ってないのですが、最近はハイキングからスタートして挑戦しようかと考えてます。そんな時に調べていたら、初心者でも難しい山に登る方が増えていて、安易に登ってる方もいような気がしてます。そのことに対してはどう思いますか?
僕個人の感情で言えば良くないと思っています。ただ、声を大にして「それは良くない」と叫ぶのが正しいかどうかはまだ結論に至っていません。修行不足です。
たしかにそういった方が多いというのはなんとなく感じています。例えばネットで見てかっこよかったから行ってみようぜっ!て、ノリで槍ヶ岳とか行っちゃう方もいるんです。ネットの情報で結構カジュアルに紹介されちゃったり、「行けるっしょっ」て行っちゃう人もいるんですよ。色々思うこともあるんですけど、そういった軽率な行動をする本人を攻めたいというのではなく、そういうのを生んでしまっている今のその人を取り巻く環境に矛先が行きます。その人達が悪いよりも、そう思わせてしまう要因を作るような情報の存在のほうが問題かと。
一方で、今は色々厳しい時代ですから、それこそ‘真面目’な僕からのそういう目もありますけど、地元の山とその道や小屋を何十年も維持してきた山岳会のおじいちゃん方に「どのようにして山を始めたか?」と聞くと、生まれてから遊びに行く感覚で山に入ってたからわからない、うちの兄に山頂まで荷物運べって言われて運んだのが最初だったかとか。今となってはある百名山の小屋の管理人を長らく務めてらっしゃったような生粋の山屋ですが、そんなバックグラウンドがあることも珍しくないですし。この問題は登山に関する安全意識云々とは少し違う場所に根本的な問題が存在するかもしれないとも感じています。
Q6.山登りはしてるけどトレイルにも行きますか?
トレイルをやっている人が周りに多い割には全然やってそうにないので興味がないのかなとか。
ロングトレイルもやりました。僕はトレイルに興味がないというよりも、山の中でやるいろんな遊びを、せっかく色んなものがあるのにいちいち概念化しようとしている感じがあまり好きではなくて。例えば源流的なロングトレイルなんかは流石に普通の登山とは全く別物になりますけど、日本の短い一週間くらいの道なんかは言ってしまえばただの連続登山なわけで。普通の登山者が登るいつもの登山道をつなげたり。そういういわば縦走路のようなのを頑張って「ロングトレイル」って呼ぼうとしてる感じが「なんだかな」と。こう思うのも一つ大きい理由がありまして。
いま日本でトレイルと呼ばれているものって一昔前のワンダーフォーゲルとすごい似ているなって思うんです。あれも実態としては普通の登山とほぼ変わりのないものを精神性の違いを結びつけてなんとか個性を確立しようとしたんです。今トレイルの人を「ハイカー」って呼ぶように当時は登山者ではなく「ワンダラー」と呼ぶこともありました。今となっては単語だけ残って形骸化したも同然で、わざわざ「ワンダーフォーゲルやってるワンダラーです」って言う人なんていないわけで。全部とは言わないですが、今日本でトレイルと呼ばれている道や趣旨にそのワンゲルの面影を垣間見ることがあるんです。ワンゲルと違ってロングトレイルには長距離長期間歩行のそれにしかない面白さと登山とは明らかに違う要素があるから、中途半端に登山と見分けがつかないものを精神性や尊重する文化の源流の違いだけでトレイルと呼んで概念化するのはもったいないと。ロングトレイル結構好きなのかもしれません。
サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路。冬から春先にかけて930kmのイベリア半島を横断する道を歩く
Q7.以前記事で「山は怖い」とおっしゃっていましたが、山に対する恐怖はどこからきたのですか?
もともとそういう感情がなかったわけではないですが、より一層強くなったのは先輩が遭難で亡くなるという事件でした。詳細は伏せますが、自分がすぐ最近まで兄弟分のように仲良く喋ってた人があっけなく亡くなってしまい、それを仲間内の連絡より先にニュースで知るという現実。その後も知り合いの知り合いや前日にテント場で会話した人くらいのちょっとした身近な範囲の人が救助されたり命を落としたりということも何度かあり、ノーリスクはありえない活動が故に明日は我が身という気持ちで活動しています。運命任せの明日は我が身ではなく、リスクヘッジを怠らないという意味での明日は我が身です。
Q8.将来やってみたい「山への挑戦」はありますか?
未踏峰です。人類がまだ登ったことがない山です。具体的なエリアややりたいことは全部決まっていて。もともとコロナ禍で計画していたものができなかったという状態が続いていて、やっと兆しが見えてきたので来年やろうという感じです。背景としては、人間社会からの隔絶というものが山の魅力の一つだと個人的に感じていて、そんな中沢登りなどで人間の息がかからない場所まで入っていくような山をやっているうちに人がいる山に登るという行為自体がそんなにロマンを感じるものではなくなってきて。究極的な人間社会からの隔絶ということを考えた時に「じゃあ人類が入ったことのないエリアまで登ってみよう」と思いまして。だから未踏峰です。
あとは、ぼくは冒険よりも探検のようなことが好きでして。歴史的な事実を調べたり、いろんな国いろんな探検隊の資料を見て割り出した空白地帯みたいなものを探ってみたり。そういう場所が多いエリアがヒマラヤにあるんです。それでそこに行きたくてしかたがないみたいな。
山仲間と入った沢で夜な夜なイワナのイクラを食べる。こういうのが楽しいそう。
Q9.山でおきた今までで一番嬉しかった出来事は?
人生で初めて森林限界を超えた時とかですかね。登山者誰しもが通る道だと思いますが、あのときの衝撃は覚えています。あとは、一般的な登山とは少し離れてしまうんですけど、初めてヒマラヤの山を目にした時とかですかね。実物を始めてみた瞬間の衝撃は忘れられなかったですね。こんなありえない大きさのものがこの世に存在したんだというような。あとは下山して温泉入ってビール飲む瞬間。どこ登ろうが何やろうがなんだかんだ一番うれしいかもしれないです(笑)。
Q10.反対に一番悲しかった、悔しかった出来事は?
コロナ直前にやっていた未踏峰までの道づくりの中でもう少しだけ無理してお金貯めていればもう少しだけ奥地に行けたのにという後悔がすごくあります。その時は限界の限界を超えたその先のような、当時の自分ができる限界まで行ってたのですが、後から情報収集をやっているともう後一日半あったらどうしても気になって仕方がないある山の横からの写真が撮れたのにと。やっぱり、未踏峰って未踏であるがゆえに写真とかデータとかほぼ無いですし、登れるかどうかは自分や周りの登山隊が撮影した写真をベースにするしかなくて。そういった情報収集で今も苦戦しているところがあって、でもあの時もう一日半だけ氷河の奥まで行けていればその決定的な写真が撮れたのにと。目と鼻の先に居たので。結局その後コロナの流行になり、もう3年もブランクが空いてしまいました。
もう一日だけこの奥に進みたかった。
Q11.最後に山登りで大切にしていることを教えて下さい。
生きている実感を噛みしめることですかね。泥臭く汗水たらして汚くなって、地道に生きています!と。
山に対する本音をたくさん語っていただきました。心から山を尊重し、山を大切に思う彼だからこそできる「山のこと」「何か」がまだまだあるのだろうと大きな可能性を感じました。自分のことを真面目だとおっしゃる彼ですが、その真面目さは山にとても紳士的で優しいのだと思います。女性に対する接し方というわけではないですが、言葉にも雰囲気にもそれを節々に感じました。愛する「自然」地球というこの場所で、私たちから見ても「未知」。それでいて素晴らしい「山」をこれからもずっと大切に、「彼の山登り」をして山と生きてほしいと願います。
次回第二弾はライターsayaさんにお話を伺います。
お楽しみに。
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