空と大地のあいまに 17

アウトドア

みちのく潮風トレイル 第16話 「奇跡の一本xx」

越喜来に残るH君やみんなに別れを告げて、三陸鉄道とBRTを乗り継いで碁石海岸駅まで戻りました。オフの後でトレイルに戻るのは少し億劫だけど、歩き出すと「ああ、帰ってきたな」という快感へと変わります。広田半島の広々とした風景の中、歩く幸せに浸っていました。

みちのく潮風トレイルは、青森県八戸市と福島県相馬市を結ぶ1,025kmの自然歩道です。その中間地点は、ここ陸前高田市の黒崎仙峡あたりになります。展望所からの絶景を眺めながらしばし物思いに耽りました。半分歩き終えたと思うと、嬉しくも寂しくもあります。

南側の半分は人口が増えてくるので、これから徐々に雰囲気が変わってくることでしょう。食料と水の補給に困らない分、野営地の確保は難しくなるはずです。

岬をまわって小さな漁港に出ると、立派な公衆トイレがありました。喜んで駆け寄ると、施錠されていました。次の漁港のトイレも施錠されていました。たまたま漁港の関係者と思われる女性が居たので「トイレを使わせてください。」と聞いたところ、「おらたちのトイレだから。」と断られてしまいました。別の漁港では「そこのトイレ使いなさい。」と言ってくださったのに、頑丈な南京錠が掛かっていました。一体、何があったのでしょう。それとも連休中だったからでしょうか。基本的に漁師さん達はとても親切なのですが。

仕方なくお寺に行くと、たまたま入り口で出会ったインターンの学生さんが、快く迎え入れてくれました。ついでにお水ももらってリフレッシュできました。

その晩は、野営できそうな場所をあらかじめ地図上で、いくつか見当をつけていました。でも最初の場所は狭かったのでパス。次は人目に付きすぎていまいち。そうするうちにどんどん進み、なかなか良い場所が見つけられません。日が暮れた後、やっと三叉路の広い空き地にテントを張りました。電波施設のような建物の陰になり、あまり目立たないはずです。背後の山林に穴を掘ってトイレとさせていただきました。

開けた場所なので、翌朝はまだ暗いうちに撤収を始めました。ウグイスの警戒声が「撤去、撤去、撤去…」と聞こえて焦らせます。朝のトイレを借りようと漁港に立ち寄ると、ここも施錠されていました。朝食をとらずに出発したのでお腹も空いています。散歩中のおばあちゃんに教わった最寄りのコンビニに向けて、急いで歩きました。なのに穏やかな広田湾の風景が美しく、何度も立ち止まってしまいます。

やっと遠くに“7”の看板が見えた時にはホッとしました。トイレに行ける!コーヒーが飲める!

少し休憩した後、箱根山に向かって登ります。公園の公衆トイレで顔を洗い、水を汲んでゆっくり朝食を作りました。

箱根山から下りてゆく道は一面のりんご畑で、満開のりんごの花と広田湾の見晴らしが印象的でした。海岸に近いところには田んぼもあって、ちょうど田植え中の男性から、震災後の後片付けや原発事故の風評被害から、ようやく無農薬の水田が復活するまでの苦労話を聞きました。

田んぼの男性が批判していた防潮堤の横を通って、ついに陸前高田の中心地に入りました。道の両側に残る震災遺構の激しさに呆然とし、工事現場の無機質なコンクリートの照り返しを浴びながら、遠くに“あれ”が見えてきました。ど根性ポプラ、一本松太郎、奇跡の一本ハマナス、など数多のライバル(?)を蹴散らして、観光客の視線を一身に浴びる“奇跡の一本松”です。

「あれはずるい、キャッチーすぎる」と、いくつかの町で嫉妬の声を聞かされていた“あれ”は、近くの道の駅でキャラクター化されて、可愛らしい一本松グッズとなっていました。

若い観光客の一群が、一本松の前でおどけたポーズで写真を撮り、はしゃいでいました。彼らが去った後、一本松の下に立って見上げました。枯れて“ニセモノ”に差し替えられた今もなお、希望の象徴として人々を集め続けるどこかユーモラスな姿。私も「どひゃ〜っ」とふざけたポーズを取ってみました。ちょっと元気が出ました。

それから少し、岩手県と宮城県の境を越えて気仙沼市に入ったところで、今回の旅を終えました。歩いた距離はおよそ200km。日常と非日常がひっくり返った心地良い9泊10日でした。

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