最後のテント泊が終わった。また無事に朝が来て嬉しくなった。最後だからといつもより量の多い朝食をお腹に入れ、サクサクとテントをしまった。あとは海に向けて下山するだけだ。お馴染みの石段を無心で下った。そして、開けた場所に出た。那智高原公園までついに来た。朝日に照らされた気持ちいい気候だった。看板には、「熊野那智大社まで2km」の文字が。嬉しくなって那智高原公園からの石段をぴょんぴょんと進んだ。
滝の音が聞こえてきた。最後の石段を下り終えると、観光地である熊野那智大社に到着した。熊野三山のうち2つ目を制覇した。まだ早朝なので人がまばらだった。どこからかお線香のいい香りが漂ってきた。早朝の涼しい空気を感じながら、早速ザックをおろし、滝の音がする方へ向かってみた。朝一で下ってきた足に階段はこたえたが、那智大滝を見るとそんなことはどうでもよくなってきた。神秘的だった。この滝が神様に見えてしまう理由がわかった気がした。高野山から那智へ、険しい道を歩いてきた人間には希望の光のように神々しく見えてしまうのだった。それは今も昔も変わらないのだろうなと思った。
滝をゆっくり拝んだあと、梅ソフトクリームをいただいた。朝からずっと歩いてきた体にスーッと染み込んでいくような美味しさだった。
最後に目玉である那智大社でお参りした。美しい朱色の建物。あまり飾り立てることをせず、大地にしっかりと根付いているような荘厳さがあった。神様の前で手を叩くと建物の中で反響し、本当に祈りが伝わっている気がした。楠の胎内くぐりもしてみた。
充分満喫し、ザックを背負い、旅人に戻った。色々なお土産屋さんや商店が目を引いた。苔むした石段をどんどん下った。これが最後の石段となった。
石段を歩き終えると、太い道路が通っている住宅地になった。休憩所で暑くてたまらなくなって靴を脱ぎ、ビーサンに履き替えて歩くことにした。熊野那智大社の賑やかさは無くなってしまい、容赦ない日差しの中の長い長いアスファルト道に突入した。傘をささないと焼肉になってしまいそうな天気だった。
目の前をお坊さんが歩いていた。白い服に登山用のザックを背負い、スマホを片手に歩いていた。現代のお坊さんは最先端らしい。様式にこだわらず、「道を歩く」ことが大切なのだろうか。お坊さんの後ろ姿に、歩いている人間として色々と考えることがあった。
車道を歩いたかと思えば山道を少しだけ通り、山道を出ると住宅地が広がっているという多様性に富んだ道だった。もう少しで海。ついに太平洋に辿り着く。暑さに負けそうになりながらさらに足を進めた。
そして、那智駅に着いた。海に着いた。着いたのだがお腹が空き過ぎてそれどころではなかった。近くの食堂でエビピラフを頬張り、ふと肩の力が抜けると実感が湧いてきた。
そこから熊野速玉大社まで長い長い車道を黙々と歩き続けた。隣には電車が走っているのに、歩いた。馬鹿なのだろうか。それでも、急いで早いものに乗って遠ざかっていく人々を眺めながらゆっくりしたスピードで旅をしているというのは心地よかった。太陽は真上に移動し、蒸し暑いアスファルトの熱気がまとわりついた。水分補給が追いついていないのか、全く汗が出ず熱中症気味になりながら歩いた。首、脇、頭から火が出そうだった。小さな峠の前でおじさんが話しかけてくれた。暑過ぎて何を話したのか忘れてしまったが、袋に入ったみかんを下さった。こんなボロボロな旅人にくださるなんて・・・。開放的な優しさが溢れている方だった。
最後の住宅街に差し掛かった。真上にあったはずの太陽は少し傾いていた。「熊野速玉大社まであと○km」の看板が出てきた。焦りそうになりながら、最後の道をひたすら歩いた。
一本道の奥に、目指しているゴールが見えた。それは、何も言わず静かに佇んでいた。そして、今回の旅の終着点である熊野速玉大社の境内に足を踏み入れた。
&Green公式ライター
大学時代に初めて一人で海外に旅に出たのを機に、息をするようにバックパッカースタイルの旅を繰り返す。大自然の中に身を置いているのが好きで、休日はいつも登山、ロングトレイル、釣りなどの地球遊び。おかげで肌は真っ黒焦げ。次なる旅を日々企み中。