【山釣り】登山中のタンパク源を現地調達してみる

アウトドア

山で新鮮な「肉」を調理したい!

タンパク源問題

フリーズドライ技術の登場によって、登山中の食事がバリエーション豊富になった今の時代、タンパク源の確保は未だに多くの登山者の頭を悩ます問題の一つであると言えます。

肉のように油分が多いものはフリーズドライにしにくく、単体ではあまり商品として出回っていません。またプロテイン粉末は便利ですが、料理ではありません。大豆ミートのような便利な食品もありますが、やはり「肉」を料理して食べたい!という思いは私の中で悶々と残り続けていました。

下界で用意するのが非現実的となれば、残る手段は現地調達です。しかし、山中で人間が手にできるタンパク源は限られており、それも法律の壁を考えるとその幅は更に狭まります。例えば、動物類は鳥獣保護法等で指定の免許を持つ人間以外の狩猟は認められていませんし、爬虫類や両生類もNGなパターンがあります。そもそも、可食部が少なくゲテモノですしね。

登山に山釣りを取り入れて実験してみよう!

そうして絞っていくと、いちばん登山者にとって手に取りやすいタンパク源はイワナだという結論にたどり着きます。それもそのはず、イワナは昔から山に生きる人間の貴重な食料源として重宝されてきた「山釣り」のターゲットなのですから。「山釣り」はタンパク源の確保の究極系なのです!

前置きが長くなってしまいましたが、今回は「山行中に山釣りを取り入れるとどのような味わいの山登りになるのか」というレポートになります。

山は朝日連峰の以東岳(いとうだけ)をターゲットに選びました。大鳥川沿いに登山道が続き、かの怪魚「タキタロウ」伝説がある大鳥池に繋がる山です。「食料を確保するための山釣りを取り入れた登山」をするには最適のルートといえるでしょう。装備はいつものテント縦走装備に追加でテンカラ竿沢靴毛鉤等、合計18kgほど。2泊3日で山に入ります。

では早速山釣りを取り入れた登山へ行ってみましょう!

注意:基本的にイワナの捕獲は遊漁券の購入が必要になります。該当する河川の管轄漁協にて遊漁券の購入を行い、ルールとマナーを守って釣りをしましょう。

山に登る

寄り道がてら、釣りへ

最初のテン場までたった3時間ほどという随分と生ぬるい工程ですが、途中で沢を超えながら歩く好ルートです。しかしあくまで登山ですので深い遡行はせずに、休憩がてらの感覚で少しずづ竿を出しながらテン場を目指します。

《このような橋の下で竿を出します》

夏日の登山で沢に入るのは、この上ない快適な休憩です。魚は釣れずとも、なんとも言えない幸せな気持ちになります。

テンカラは難しく、また警戒心の強いイワナ相手に、しかも登山道沿いの沢でひと休み程度に釣果を上げることは、一筋縄では行かないことは覚悟していました。結局テン場までに出会えたのは、地元漁協の指定するリリースサイズギリギリの個体が一匹リリースしたくらいです。これは、食事にするには物足りないサイズです。

常に登る時間のバランスを頭に入れながら、釣りに使う時間とルートを踏まえた山行。なんだか不思議です。山登りがメインとなる山釣りの獲物確保は難しいものですね。

テン場の横で夕食を狙う

食事にするには十分なサイズを釣ることができずテン場まで来てしまいましたが、時刻はまだ昼過ぎ。テン場で沢靴に履き替えて、すぐ横を流れる川で竿を出してみる

すると、きました!きました!25cmの食い頃サイズの獲物です。そこそこの体高で美味しそうです。この後も一匹かかりましたがランディングに失敗し逃げられてしましました。残念。ですがこれだけ立派な個体なら、栄養的には問題ないでしょう。

無骨な山飯「イワナ汁」を堪能する

さて、とらえた獲物でキモの調理と食事の時間です!今回選んだ調理法は「イワナ汁」です。「え?塩焼きにしないの?もったいなーい!」という方もいるかもしれません。ですが、登山中にお世話になるテン場では焚き火を起こすことはできません。何より、イワナ汁は山では言わずとも知れたイワナ料理の定番です。

作り方は至ってシンプル。ぶつ切りにしたイワナを入れる味噌汁です。

完成したイワナ汁がこちら。油を入れずとも油が浮いています!イワナと言えばたんぱくな味が特徴ですが、ここまで脂が乗った個体は初めてです。そして肝心のお味ですが、これがまた美味しいのなんの!ほんのり鮭のような香りがして美味です。山でこんなにも新鮮な魚肉を口にできるのは幸せこの上ありません。イワナは鮭科の魚です。氷河期には鮭と同じように海と川を行き来していましたが、冷水を好む特性から氷河期後にはほぼ陸封型となり、一部の種を除く多くのイワナは山の鮭となりました。

ありがたいタンパク源です。

二日目の夕食を狙う

さてさて、無事夕食にありつけた私ですが、この日の行程は途中から沢を外れて急登に入ります。森林限界を超えるルートだったので、沢から外れる前の朝イチで夕食のイワナをとる必要がありました。

そこで沢から外れる直前の「東沢」へ少しだけ寄り道します。あくまで寄り道ですし、急登にむけて体力を温存するので長くは遡行できません。なので絶対的なポイントをピンポイントで狙ってサクッと切り上げます。

そして願い通り一発で釣れました。正直あまり期待はしていなかったのですが・・・運がいいです。

このイワナ、パーマークとオレンジ色の斑点が無く大きな白い斑点が目立ちます。エゾイワナです。海に降りるとアメマスになるタイプのイワナです。釣り上げた瞬間の白い魚体が印象的でした。23cmが2匹です。夕食には十分でしょう。切り上げて登山道に戻ります。

森林限界上で鮮魚を料理

この日の晩も変わらずイワナ汁。鮮魚が手に入るはずのない森林限界上の稜線で朝採れの鮮魚を調理するのは新鮮です。普段の山行ではタンパク質の補給は大豆ミートやスパム、煮干しに頼るのですが、やはり新鮮な魚肉は満足感が違います。

ですが、まな板とナイフの使用、及びそれらの掃除を考えると手間はかかります。骨も食べなければ余計な生ゴミとなりますので、一般登山道の縦走でイワナを食べるのはサイズや数を気をつけねばなりませんね。とはいえその美味しさで手間はどうでも良くなります。

下山&実験の感想

翌朝、お腹の満足度は下界にいる時の満腹度と近いものがありました。行動や荷物の内容はさておき、やはりイワナを食べるのはなかなか良いというフィーリングではあります。ただ個体数も限られ、全ての登山者がこのような手法を取り入れ始めたら、それこそ持続不可能の極みでしょう。余計な体力消費を生む要素にもなりますし、これからもおとなしく大豆ミートをむさぼり食うことにします。

経験としては面白いものでした。まさに沢屋と山屋のミックスです。たまに山遊び程度にやる分には楽しいかもしれませんね。

登山は軽量化を意識しすぎるあまり、食料が不十分になることが多々あります。山に登って痩せてしまうことがありますが、それは運動に必要なカロリーを取り切れていない証拠でもあります。タンパク質も同じで、無視してはいけない要素だと思うのです。これからも楽しみながら食糧事情を考えていきたいところです。

さぁ、靄のかかった朝焼けでピンク一色の誰も居ない稜線を歩いてたどり、下界を目指します。この美しい稜線が蓄えるきれいな水が、イワナの生息地を育む沢を支えるのですね。

なんとも美しい光景です。

さてさて、皆様は山の食事に対してどうアプローチしますか??あえて泥臭い手段に出るのも手かもしれませんよ!

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