純和風のイメージがある菊の花。日本では、仏事で用いられる印象もありますし、菊で人形をつくる菊人形も昔ながらのものというイメージがあります。今、お花屋さんで見られるのはそんなイメージとはちがった新しいタイプの菊です。菊が品種改良され、色もかたちも生まれ変わった“マム”が人気を集めています。
古くから親しまれた日本の菊
菊は、日本の国花で、パスポートや50円玉硬貨にも菊の模様は記されています。また、日本の皇室の御紋章も菊です。皇居のお土産品として購入できる菊のワンポイント入りのお財布はハイクオリティで1000円台ということから、SNSでも話題になっています。
なぜ、菊が日本の国花、皇室の御紋章にもなっているかといえば、昔から親しまれているからなのだそう。日本の菊は奈良時代に中国大陸から入ってきて、愛されてきました。花の美しさを鑑賞するだけでなく、長寿の力があるとされ薬に使われたり、虫が菊を嫌うことから虫除けの目的で植えられたりもしていたようです。
また、江戸時代の頃には食用菊として、菊の花を食べる習慣も生まれています。同じく江戸時代には、菊を改良し、新しい花を楽しんだり菊の咲かせ方を競う「菊合わせ」も行われ、その文化は現在の「菊花展」に通じています。
洋風マムの歴史
江戸時代、鎖国をしていた日本には、欧米にその存在すら知られていない花々が存在していました。アジサイやユリが江戸時代の後期に海外へ渡り人気になりましたが、菊もその一つです。
菊を欧米に広めたのは、1860年に来日したイギリスのロバート・フォーチュンという人物。ロバート・フォーチュンはこの時代に多くいた「プラントハンター」の一人でした。
プラントハンターとは当時、日本やアジアの植物や香辛料を自国に持ち帰り、広めることを仕事としていた人のことで、その後は植物の採取は植物学者によって行われるようになりました。ロバート・フォーチュンにより欧米に伝えられた菊は、品種改良により、純和風の姿とはちがった進化を遂げることになります。
マムの咲き方5種
ポンポン咲き
ポンポン咲きは、細かな花びらが密集して花全体が丸くなるような咲き方のことです。他にはない存在感があり、ブーケやフラワーアレンジメントに欠かせない人気の咲き方になります。ポンポン咲きは、丸みを帯びながらも花の中央が少し見えるような咲き方です。このポンポン咲きを一本仕立て(後述するディスバッドタイプ)にすると、花の中身が隠れるほど丸くなり、ピンポンマムと呼ばれます。
シングル咲き
シングル咲きは、花びらが一重のスタンダードな咲き方です。黄緑色や黄色の花の中心部分がよく見えるので、花びらとのバイカラーを楽しめます。
アネモネ咲き
アネモネ咲きは、シングル咲きに似ていますが、花びらは重なっている八重咲きです。また、花の中心部分はアネモネのように少し出っぱっています。花びら、中心部分ともに立体感が有り、華やかな印象の咲き方です。
デコラ咲き
名前の通り、decorative=装飾的な咲き方のことです。花びらはアネモネ咲きと同じく八重咲きで、花の中心部分は見えないほどに花びらがぎっしりと重なっています。知らない人が見たら、ダリアと見まちがえてしまうような豪華さのあるマムです。ダリア咲きという呼び方もされています。
スパイダー咲き
スパイダー咲きは、スパイダー=蜘蛛から来た名前です。細めの花びらが、花の中心からまるで蜘蛛の巣のように放射状に広がっています。日本古来の糸菊を思わせる雰囲気もありながら、花びらは2色のグラデーションのものもあり、モダンな咲き方です。
咲き方以外の分類
マムには、咲き方による名前と他の呼び方が混在しています。お花屋さんでも見かける呼び方をいくつかご紹介しておきます。
スプレーマム
洋風マムといえば、スプレーマムが代表的な存在です。スプレーで噴射するように枝が分かれた先に花が咲くので、スプレーマムという名前がつきました。一本の大きな花を咲かせるスタイルが多い和風の菊とはちがって、かわいらしく元気なイメージになります。よく見かけるスプレーマムはシングル咲きのものですが、上記のどの咲き方のスプレーマムもあります。
ディスバッドマム
ディスバッドとは、つぼみ(bud)を除く(dis)という意味です。自然に育てると枝分かれしていく部分をあえてカットして、一本の大きな花に仕立てたマムをディスバッドマムといいます。この手法は日本では「一本仕立て」ともいい、日本の菊栽培でもよく見られます。鉢植えで鑑賞することの多い菊に対して、マムの場合は一本仕立てにした花は「ディスバッドマム」と呼ばれ、切り花として流通しています。
ディスバッドマムでよく見られるのは、ポンポン咲きのマムです。ディスバッドにすることで、一つの花に栄養が行き、より丸みを帯びて半球に近い立派な花になります。丸くなったポンポン咲きのマムはピンポンマムと呼ばれることもあります。
ガーデンマム
大鉢にこんもりと色とりどりのマムの花が開くガーデンマム。次々とつぼみをつけ、大きな鉢では1つの鉢に1000もの花が咲きます。こんもりとした形は品種改良によるもので、形を整えなくても丸く咲いてくれます。豪華で目を引くガーデンマムは、お客様をお迎えするエントランスにぴったりです。サイズは様々で、大きなものには迫力があり、小さなものはさりげなく個性を発揮してくれます。
飾って楽しむマム
《マムとガーベラ・チューリップ・カーネーション》
日本の菊は仏事に用いられることも多く、他の花と合わせることなく、菊だけで使われることが多いようです。一方、洋風のマムは、仏事用という先入観がないため、バラなど華やかな花々とも調和して新しい魅力を伝えてくれます。
マムをメインにブーケをつくるときには、季節が秋であれば、ワレモコウやススキ、リンドウなどと合わせると秋の野原のイメージでまとめることができます。切り花のマムは季節に関係なく手に入るので、同じキク科のガーベラやダリアとまとめても素敵です。一枚一枚が小さな花びらで構成されているマムは、花びらが大きめのトルコキキョウやバラ、カラーなどと合わせると、コントラストが出て動きのある花束になります。切り花が長くもつことも、マムの大きな魅力です。
特に気温の低くなる秋冬は、マムの切り花を買うと2週間ぐらいは楽しめます。合わせる他の花が先にダメになってしまうこともあるぐらいです。合わせる花を変えながら、マムを楽しんでみてはいかがでしょうか?
もっと詳しく知りたい方へ
はじめてのスプレーマム
表紙を飾るスパイダー咲きのマム以外にも、ポンポン咲き、アネモネ咲きなど、バラエティ豊かなスプレーマムを一冊にまとめた本です。人気の高まりとともに栽培する人の増えたスプレーマムの育て方や、日持ちのする飾り方に加えて、コンテスト入賞を目指す中〜上級編の内容までが紹介されています。
マムは、切り花としてはもちろん、次々と花を咲かせてくれて育てる楽しみも味わえる花です。マムのことをもっと知りたい方はぜひ手にとってみてください。
【 この記事を書いている人 】
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