John Muir Trail -ある夏の私の旅- 【1日目】

トレイル

8月22日【Day1 Happy Isles → Little Yosemite Valley 7.9km】 

一度、真夜中にサクラメントで乗り換えて、Mercedについた。周りに何もない、秘境中の秘境、といった駅だった。ちょうどこの駅で朝日を見た。

アメリカの大地の地平線から昇る太陽は美しい。

この日も晴天だった。長い貨物列車が目の前を通る。ザックを地面に置き、その上に座ってじっとその光景を眺める。私の旅はボーっとしていることが多い気がする。虚無になった感覚が好きなのだと思う。

ちょうど来たYARTSバスに乗り込む。もう次はYosemiteに行ける。

乗客は3人ほど。住宅街を通ったり、山道を通る。席を倒し、昇ったばかりの太陽を眺めながらウトウトする。次に足をつける地面はスタート地点、Yosemiteだ。

そしてついにYosemite国立公園に到着した。

どこを見ても大自然。大きい。やっと来た。夢にまで見た場所にやっとたどり着いた。長かった。つい先日まで日本にいたなんて考えられない。

日本から遠く離れて目的地を目の前にすると、私はいつも何かの奇跡ではないかと思ってしまう。

さて、ここからが本番。

John Muir Trailを歩くには、必ず許可証が必要となる。John Muir Trailをすべて歩くのではなく、一部を歩く人も許可証を持っていないといけない。環境保護のために一日に入れる人数を制限している。

ほとんどの人は、事前にインターネットで申し込みをする。しかも、申し込んだとしても、私が行った8月9月はハイシーズンであるので定員オーバーになることが多い。なので、抽選が行われ残った人のみが歩ける。

この申し込みはかなり前に定員オーバーになっていた。私はまだいつ歩くのかも決まっていなかったため、抜け穴である、当日枠にかけた。

当日枠に入れるまで早朝から何日かけても構わない、並ぶ覚悟でYosemiteのWilderness Centerのドアをたたいたのである。

私は、本当に運がいい。

その日出発のYosemiteからMt.Whitneyの許可証の当日枠が空いていて、あっさりと許可証を取ることができた。人生のすべての運を使い切ったと本気で思ってしまって逆に怖くなった。これが私のトレイル初日である。

ただし条件として、この日にヨセミテからLittle Yosemite Valleyまで歩く、というものがあった。ルールの説明を受けた。ゴミはすべて持ち帰る、焚火は決まったところで行う、レンジャーが来たら許可証を見せる、など、沢山説明を受けた。そしてついに許可証を手にした。

あまりの興奮に、自分が朝ご飯を食べていないことに気づくと、広々とした売店でアメリカの朝ご飯をおなかに入れた。許可証も手に入り、おなかもいっぱいになり、視界がすっきりと晴れるようだった。

パッキングをし、靴ひもを締め、歩き出した。まずは、許可証をとった場所からHappy Islesというところまでの舗装された道路を歩いていく。ここはまだトレイルではない。

これでしばらく舗装された道路とはお別れだと思いながら、きれいな青空の下を歩いていった。

自転車に乗ってサイクリングを楽しんでいる家族もいた。車もまだ通っていた。足取りがとても軽い。

そして、ついにJohn Muir Trailの入り口にやってきた。看板が立っている。ついにここまで来たのだ。

日本からはるばるここまで来て、今、John Muir Trailスタートの地点にいる。何とも表し難い、フワフワとした気もちだった。そして、ついに私は、この道に足を踏み入れた。

 あの有名な看板で写真を撮り、歩き始める。あちこちで「今から歩くの?頑張って!Have a nice day!」と声をかけてくれる。

あぁ、ついにJohn Muir Trailのハイカーになってしまった。

前から、いまトレイルを終えたというような、日に焼けて、キラキラと輝いた表情のハイカーとすれ違った。終わるころには私もああなっているのだろうか。

最初はさすがYosemite、観光地で人が沢山いた。連日の移動と時差ボケなどが重なったのだろうか、ここでなんと両足を何度もつってしまう。

やはり体は疲れていた。正直、一回スタート地点の方に戻ろうと思ったが、心がそうさせなかった。

周りにはみんなが憧れる大きな滝が、大きな岩が、沢山あるのに、そこに目を向ける余裕はほとんどなかった。数キロの山道をゆっくりと進んだ。いいのだ、これを歩くのは私が決めたこと。今更引き返したくはない。

そして平たんな道の先に今日の寝床が見えた。

Little Yosemite Valleyについたとたん疲れがどっと押し寄せてきた。テントを張り、恐る恐る水を汲んで浄水器を通して飲んでみる。慣れない手つきで火をおこす。周りには数人ハイカーがいたが、この先には進まない人が多い。途中でレンジャーが許可証の確認をしに来た。

がんばれと言ってくれて、久々に笑ったような気がした。疲れて食べ物を受け付けない喉に夕飯を流し込み、ストレッチをしてシュラフに潜り込んだ。日が沈んで周りが寒くなってくる。

あぁ長かった。少し緊張している。がんばろう。帰り方もわかっているから、あとはあるき続けるだけ。最後は北米大陸本土最高峰のMt.Whitney。まだ8時だけどもう寝よう。

私のJohn Muir Trail初日はこうして終わった。

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