今日の頂きはいつかに連なる-八ヶ岳縦走の思い出-

アウトドア

登山データ
1日目:美濃戸(1715m)=南沢コース⇒行者小屋(2350m)⇒中岳のコル(2640m)⇒阿弥陀岳(2805m)⇒赤岳(2899m)=天望荘宿泊
2日目:天望荘⇒地蔵堂(2710m)⇒横岳(2825m)⇒硫黄岳(2742m)⇒赤岩の頭(2656m)⇒赤岳鉱線(2210m)=北沢コース⇒美濃戸(1715m)

登山での最高の瞬間は、と言えばやはり山頂にたどり着き、そこからの展望を目にした時ではないかと思います。またその景色の中にかつて登った山を眺めるのも格別で、高地でしか見られない、地上とは違った山々の世界、一帯感、そういったものを懐かしさと共に感じます。

今年の5月に霧ヶ峰の車山山頂から、八ヶ岳の峰を眺めました。霧ヶ峰は美しい景色となだらかなコースで一般向けの山に区分されますが、高地からはじまる木陰のないコースだったためか思いのほか苦しく、自分の体力のなさも感じました。そんな折、目にした赤岳から続く尾根の光景に、かつて登った山、そしてこれから登る山について、思いを巡らせました。

2005年7月の海の日を前に、1泊2日で八ヶ岳を縦走しました。残念ながら写真データはないのですが、同行したKさんが詳細なレポートを残してくれており、それを素に当時の記憶を振りかえってみたいと思います。

【車山山頂(霧ヶ峰)から見た八ヶ岳】

16日早朝、私と友人は夜行電車で茅野駅に到着、そこで仮眠を取っていたところ、Kさんが車で来てくれました。美濃戸口のバス停行付近の売店で手製のおはぎなどを調達し、荒れた林道を経て、美濃戸に車を駐車させました。ここから南沢コースへ進み、分岐点の行者小屋を目指します。

この日は残念ながら、晴れていれば正面に見える横岳は雲に隠れたまま、それでも涼しい河原歩きを楽しみながら、行者小屋までたどり着きました。ここから急な上り下りが続きます。まずは中岳のコルまで、シラビソとダケカンバの樹林帯を進みます。中岳のコルで荷物の一部を置いて、身軽になって阿弥陀岳山頂を目指します。展望はほぼなく1m先に見える岩場がすべて、克服すべき進むべき道として立ちはだかります。阿弥陀岳山頂では雲の隙間から編笠、権現山が垣間見えました。

再び中岳のコルを経て、いよいよ八ヶ岳最高峰の赤岳を目指します。ジグザクとした赤岳特有の赤いガレ場、鎖場、鉄はしごなどに加え、ガスが小雨になり、苦戦しながらもなんとか赤岳山頂に到着しました。遠雷の気配と寒さに長居はできませんでしたが、それでも1等3角点に触れ、3人で握手を交わし、1日目の登頂をたたえあいました。

八ヶ岳は日本の山の雄、富士山と高さを競い合ったという説話が伝わっています。説話では八ヶ岳が高かったため、怒った富士山が八ヶ岳を蹴り飛ばし、八ヶ岳は八つに分断され、尾根の連なる現在の姿になったそうです。説話の富士山の大人げなさはさておいて、実際に八ヶ岳は巨大な一つの山が、激しい火山活動により、現在の姿に至ったと言われています。広大な裾野はその名残だそうで、かつての八ヶ岳がいかに巨大な山であったかを物語ります。赤岳の特徴である赤い山肌も、かつての噴火で流れ出た溶岩が酸化したためだそうです。

一泊した天望荘にはお風呂もあり(2022年現在は休止中)、一汗流して睡眠不足も解消され、快調な朝を迎えました。残念ながらこの日は風と雨が吹き付ける空模様で、赤岳でのご来光は諦めましたが、雨具を着込んで横岳を目指しました。狭い岩稜帯を下から突き上げるような風の中進みます。横岳の奥の院に到着する頃には、雨風も収まり、視界も開けてきました。ふり返れば、迫力ある赤岳が姿を見せています。

ここから先は足元にコマクサやシャクナゲ、コイワカガミが咲き、高山植物に詳しいKさんに名前を教わりながら進みます。花々を見ながら下り、硫黄岳山荘に到着しました。ここはウォシュレットの水洗トイレがあり、快適な天空トイレに感動したとKさんのレポートに書かれていました。また一帯は貴重な高山植物の群生地でもあり、保護されているお花畑もあるので訪れてみるのもいいですね。

硫黄岳山頂まではガレ場の連続で、積み上げられた石のケルンを頼りに登っていきます。広々とした硫黄岳の山頂からは、本州中部の山々はすべて見渡せるというだけあって、大パノラマに魅了されました。

昨日は見えなかった横岳や南八ヶ岳の景色を横目に、赤岳鉱泉方向に下山します。北沢の渓流が聞こえる頃にはアブの襲来が待っていました。かなり刺されましたが、無事に美濃戸の駐車場までたどり着き、1泊2日の八ヶ岳縦走の旅は終わりました。

霧ヶ峰から遠方に見える八ヶ岳の尾根は指先で測れば10センチほどで、ギザギザとした峰の記憶をたどりながら、この日の頂きも、昨日の、またいつかの山の頂きに連なるのだと思うと感慨深かったです。指先を広げて、苔の美しい北八ヶ岳、あるいは権現岳、編笠山、いつかその続きを登りたいと思いました。

ところでKさんのレポートには美濃戸の駐車場が、2005年から一日1000円の有料になったと書かれていました。気になって調べたところ、2022年の現在も一日1000円でした。かつて谷川岳のロープウェイ天神平付近で買ったペットボトルの水が、麓では半額になっていたことを思い出しました。その時は「水」ではなく、「水を売る労力」を売っているのだと納得しましたが。

しかし急に有料になった駐車料金が17年後も据え置きとは、山は地上とは違う市場原理で動いているようですね。

 

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