John Muir Trail -ある夏の私の旅-【出発】

トレイル

8月20日 出発

いつもの成田空港に着いた。鳴り響くアナウンスの音。地球の反対側まで行く飛行機。初めて一人で飛行機に乗る人、随分と長くさようならを言っている人、仕事で出張の人、初めての日本の空港に目を輝かせている人、見送る人、迎えに来た人。たくさんの人間ドラマが繰り広げられる、この場所が好きだ。すれ違う旅人の異国情緒あふれたにおい。飛行機の燃料のにおい。ここは、私にとっては夢の場所だ。今から私もこの旅人の一人となって海を渡る。さぁ、私の旅が始まる。

荷物を預け、チェックインを済ませ、飛行機の時間まで椅子で待つ。心臓が躍っている。早く飛行機に乗りたい気持ちを頑張っておさえる。その間に何機も飛び立つ飛行機を見送った。搭乗時間を何度も確認する。手汗で搭乗券がシワシワになってきた。今しか日本を見ることはできないなと、ふと思い、キョロキョロと周りを見回す。周りにいる人たちは今からどこに行くのだろうか。

ついに搭乗時間になった。さようなら日本。また、私の国に帰ってくる日が来ますように。ついに飛行機に足を踏み入れる。まずは香港まで。さようなら、さようなら。

機体が動き出す。あぁ、ついに。楽しみと不安が入り混じった複雑な感情が脳内を駆け回る。離陸。さようなら日本。

無事に離陸し、日本の土地がだんだん遠くなっていく。もう、飛んでしまってからは、日本は私にとって異国になる。ふと肩の力が抜ける。飛行機といえばビール。これが私の旅の約束だ。そして私の好きなCaravanというアーティストの旅の曲。ずっと曲を聴きながら、窓から見える海を眺める。香港までの飛行機は乗客が少なく、のんびりし放題だった。途中乱気流で字が乱れたが、日記を書き続ける。飛行機の、通信機器が使えない環境が意外と好きだったりする。一人ニヤニヤして過ごす。

随分と長く香港の上空を飛んだあと、香港に着いた。久しぶりの異国。香港の空港が大きくて驚く。歩いても歩いても空港の端が見つからない。今自分がどこにいるのか全く分からなくなる。楽しい。楽しすぎる。ここから10時間のトランジットだ。

本当は外に出たかったが、香港内でデモが活発になっていたので、外に出るのはやめて空港内で過ごすことにした。おなかがすいたのでタイのカオマンガイのような料理を食べてみる。久しぶりの海外の料理。のんびり、のんびり過ごす。旅を始めてから暇のつぶし方がうまくなった。ボーっと人間観察をするのも悪くない。昼に香港に着き、アメリカへのフライトは夜。

眠くなって何度か寝かけたが、乗り遅れたら大変なので動画を見たりして頑張って耐える。外はだんだんと夜の空に変わってきた。さっきまで日本にいたことが信じられない。遠い昔のことのような気がする。今日本にいたら普通に寝ている時間だが、今日は異国で次の飛行機を待っているという、この感覚が好きでたまらなくて、旅がやめられない。

ついにアメリカへの飛行機に乗り込む。ここから13時間。もう外は夜だった。そして私はこのアメリカ行きの飛行機が離陸することに気が付かなかった。限界がきて眠っていたらいつの間にか足の下は海だった。夜なので外も見ることができないから通路側にしたが、正解だった。隣に座ってきた人がなんとも大きめの人で、窓側に座っていたら夜トイレに行けなかった。こういう、クスリと笑ってしまうような出来事を割と楽しんで旅をしている気がする。

日本を8月20日の昼前に出て、香港で10時間トランジット、その後十数時間のフライトの末にアメリカの西海岸、サンフランシスコに到着したのは同じ8月20日の夜であった。生まれて初めて太平洋を渡り、教科書でしか見たことのないアメリカに立った時の感動は今でも忘れられない。空港に降り立つ前に見えた、大都会の夜景に歓迎されているような、そんな感覚まで覚えた。長いフライトだったが、ほとんど寝ていたので長いとは全く感じなかった。

入国もスムーズに進んだ。あぁ、アメリカに来た。来てしまった。太平洋を渡ってしまった。ここはアメリカだ。私は今アメリカにいるのだ。この地に立っているのだ。広い。大きい。たくさんの民族が混ざっている。みんな大きくて、自分が小人になっているような感覚を覚える。ひんやりとした真夜中の空港で、一人ニヤニヤが止まらない

とりあえず眠れる場所を探そうと空港内をフラフラした。こういう夜についた時には無理に移動せずに建物の中でのんびりする方が好きだ。だいたいどこの国にも待合室の椅子があり、そこが快眠スポットだったりする。サンフランシスコ空港にもしっかりあった。椅子と椅子の間にザックを押し込み、シュラフを出して床にひいて横になる。何日ぶりに横になったのだろう。それにしても日本から長かったなぁ、香港のトランジット暇だったけど楽しかったなぁ、ずっと飛行機に乗っていたんだなぁ、などと物思いにふけりながらウトウトしているといつの間にか眠っていた。

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