【ONE SCENE】山とトレイルにまつわる物語
 vol.03

アウトドア

私は東京に住むデザイナー兼イラストレーターです。このコラムでは、山やトレイルに行けない時間に、私が描いた1枚の絵(1シーン)とともに、その絵にまつわる物語を少しだけお話しさせていただこうと思っています。

「五色ヶ原の記憶 / その2」

今回は「五色ヶ原山荘」で働いた時の思い出のお話。その2。

なんとか山小屋へついて、 当たり前だが紹介されたのが五色ヶ原山荘のご主人でした。

肌は浅黒く、いかにも山小屋の主といった雰囲気。ビビりながらも荷物を屋根裏に持って行き、いろいろ説明を受けました。私たち3人以外にも女性3人(大学生)が一緒に働くこととなるみたいで、名前は一人だけ覚えているのが確かやすよさんという方だった気がします。(後に少しだけ好きになったのを覚えています。)二人は大阪から来た友達同士。

こうして、まだ右も左もわからない高校生のひと夏のバイトがはじまりました。

山小屋へ来てはじめての夜、屋根裏に寝る、という人生初めての体験でドキドキワクワクだったのを覚えています。

朝は4時起き。しばらく、朝早いことがなかなかしんどく、もうちょい寝たいなーと時計を見る日々でした。そんな中、楽しみができました。

初日だったか、朝起きると屋根裏にある窓の外がうっすら青く光っていました。覗き込むと、そこは、まるで海の中にいるかような青々とした五色ヶ原の景色が目の前に広がっていました。数十年経った今でもその感動をはっきりと覚えています。それから毎朝、窓の外を眺めるのが楽しみになり、多少、朝起きることが楽になりました。

朝は、起きたら宿泊者の朝ごはんづくり。眠い目をこすりながら、まぁまぁな量を盛り付けていきます。そのあとは食事を出したり、掃除をしたり、荷物の運搬のお手伝い。いろいろ働きました。

夜はみんなで机を囲んで夕食。近くの山荘から来た大学生のお兄さんが「今日、熊が出たんだってよ、クマリもんですなー」とくだらないギャグを大声で笑いながらしゃべっているのを片隅で聞きながら黙々と食べる自分。山小屋でたべる飯は朝早くから働くせいか、めちゃくちゃうまかったです。

数日も経てば山小屋のくらしにも慣れてきて、受付をひとりでまわしたり、お客さんを案内したり、あっという間に一日が過ぎて行きました。そんな中、たまに事件もおきます。時間帯は覚えておりませんが、僕らを案内してくれた人は山岳救助隊で、その方が物々しい雰囲気で山荘にやってきて遭難者を探しに行くと…。

捜索に行ってから何時間経ったかは覚えていません。その後、遭難者は見つかりましたが残念ながら亡くなっていたそうです。山岳救助隊をやっているとなかなか頻繁に起こるらしく、くれぐれも注意してくれと言われたのを覚えています。

もう一つの事件は、当時山小屋バイトの力仕事はクラスメイトと私、男2人でやっており、夕方になるとクタクタ。そのせいか、夜ご飯は毎晩通常の大きさの茶碗の2倍近く大きい茶碗にたんまりとよそい、4杯食べておりました。人生であんなにご飯を食べたのはこの山荘が最初で最後だったかと思います。めちゃくちゃ旨かったので毎晩毎晩食べていたら、ある晩、ご飯中に腹痛に襲われました。

悶絶するような痛みだったので、すぐに屋根裏に行き、横になりしました。救助を呼ぼうかのギリギリのラインでしたが、少し時間が経ち落ち着いてきたので、そのまま横になって休ませていただきました。横になったまま眠りにつき、翌朝起きると痛みはなくなり、いつもの通りに戻っていたので安堵….。

病院には行っていませんが、おそらく毎晩食べすぎたことによる食べすぎの腹痛だった気がします。

山には病院がないので、このように病気をした時には大変だなーと高校生ながらに思ったのを覚えております。

休み時間はぼぉーっと五色ヶ原を眺めるのが好きでした。流れる雲や花、カモシカもいました。今思えば、なんとも贅沢な時間と体験です。五色ヶ原の思い出は僕の一生の宝物となっています。クライスメイトのカップルに感謝です。

そして、最後の事件。

高校生ならではの事故と言っていいのか…。一緒に行ったカップルが、どうもいつもイチャイチャしているらしく、ある時期から主人がよく思っていないというのを聞いていました。1ヶ月半が過ぎようとした時、とうとう主人が怒りました。

「お前ら2人、もう山を降りてくれ!」。

もう後戻りできない状況になった2人は下山するしか道がなくなりました。「お前はどうする?」と聞かれて、すごい悩みましたが、クラスメイトと降りることを選び、私のひと夏の山小屋バイトはクラスメイトのいちゃつきによって終止符が打たれました。

ちなみに僕は当時付き合っている彼女もいないし、ぼぉーっと生きているサッカー部の端くれ。(高校3年の最後には美人な彼女ができましたけどね。笑)

ひと夏の貴重な思い出ができたことに感謝しつつ、いつかもう一度五色ヶ原に行こうと思っています。

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