これまでの登山をふりかえれば、苦しかったことより達成感と充実感が、より思い出されます。雨と霧で1m先しか見えず、ほとんど目の前の岩を登るしかなかった記憶でも、何年経っても忘れないでいるというのは、その日、その時、そこにいたことが特別な経験だったからでしょう。
夏ごろですが、1ヶ月近く山に行けない期間がありました。高い山に行く計画を立てられなかったこと、足を怪我してしまったこと、復帰の足慣らしと考えていた低山登山も天候に恵まれず…と、山に行けない日が続きました。春先から少しずつ体力をつけようと目標にしていたので、この夏が終わってしまったなという気持ち、果たして自分の今の体力はどの程度なのかという不安な気持ち、山を趣味にするというのはどういうことか、振り返りながら考えることができました。
7月半ば、コミュニティーで募集していた奥多摩の川乗山登山に参加させてもらいました。私が好きな山のひとつが川乗山です。沢沿いの登山道を歩くのが心地よく、これまで2回訪れている山です。ただ7月のこの時は山道が通行止めで、川乗橋バス停から百尋の滝を経て登るコースではなく、鳩ノ巣駅から山頂を目指しました。この時は道を間違え予想以上に時間がかかったこと、ベテラン参加者の足がつったりなどのアクシデントがあり、山頂までは行かず引き返しました。無理をすればもう少し行けたかもしれませんが、リーダーが全体のことを考えての決断でした。残念ですが、山は逃げません。通行止めも解除された9月、今度こそ好きな渓谷沿いを歩こうと計画していました。しかし今度は家具に足をぶつけ、思った以上に長引く痛みに見送らざるを得ませんでした。
この期間中に、山と渓谷社から出版されているヤマケイ登山学校シリーズ・『山を歩く』を読みました。タイトルの通り、山を歩く魅力から始まる山の歩き方の指南書です。私はこれまでちゃんとした講習を受けたことはなく、感覚的に歩いてきました。この本を読み、山を歩くということを、言葉で知ると知らないでは大きな違いがあると感じました。重心や歩くために使っている筋肉や関節、さらにそこを動かすエネルギー源のこと、山道を進む一歩には、それまで過ごしてきた生活すべてが繋がっています。普段できるだけ階段を使うようにはしていましたが、「脚は第2の心臓で全身に血液を循環させる機能を持つ」と意識すると、もう一段登れそうな気がします。
この本にはグループ登山の時の理想のリーダーについても書かれています。正確な登山知識、的確な判断力と統率力など必要な資質が挙げられていて、7月に川乗山でリーダーだった方のことを思い出しました。山頂に行けなかったけど無理をしなかったこと、これも大切な登山経験だったと感じます。またリーダーに向いていない人の資質も書かれていて、「山に対し、技術的にも精神的にも向上心を持たないリーダー」というのが胸に響きました。リーダーになるつもりはなくても、山はなんとなく登れてしまうものでもあるから…胸に刻みたい言葉です。
これまで山で大事に至るところはなかったものの、準備不足だったり、軽率だったりと、危険と紙一重のところにいたのではと気づくこともできました。さまざまな人の支えがあって、楽しめてこられたのだと感じます。不注意で足を怪我しましたが、それが山であればどうだったのか、それが起こらないための身体づくりと歩き方、万が一起こってしまってもそれに対処する知識や準備をしておくことの大切さも感じています。
&Greenの「登山塾」では、専門家のいる講習を受けることの大切さが書かれています。そして実践で学ぶ大切さも。山の魅力はと聞かれても、実際に登ってみてどう感じるか、これに勝る答えはないのと一緒ですね。
私は自分の脚でずっと健康に歩いていたいという目標があり、そのハレの舞台が山ならいいなと思っています。幸いに山にはそうした先輩がたくさんいらっしゃいます。
足の痛みもようやくおさまったので、この週末に那須岳に行ってきました。山行中は集中していて爽快感があったのですが、翌日痛めた足がはれていました。これを書きながら、まだ早かったかもと反省しています。次の山まで「歩く」ということをテーマに、準備を整えたいと思います。
涼しく快適な季節になりましたね。北の地から、高地から、紅葉も見頃になります。私も足の回復を祈って、どこかの山で見頃に間に合えばいいのですが。
&Green 公式ライター
20代後半に連れて行ってもらった低山縦走コースで登山の楽しさに目覚める。一時期体調を崩したが、数年前から関東近辺の低山中心に日帰り登山を楽しむ。コーヒーが大好き。人生後半の暮らし方についてトライアンドエラーの日々。