チョー・オユーのベースキャンプに到着した。標高は4800m。石や岩がごつごつとあるひらけた場所にスペースを作り、食事を作るキッチンテント、食事やミーティングをするコミュニケーションテント、寝るテント、トイレテント、シャワーテントを現地スタッフが張っていく。別の隊も含めて、何百というテントが張られた。
ベースキャンプでは、ネパール人のシェフとキッチンスタッフたちが、毎日、さまざまな料理を作ってくれる。ネパール料理「ダルバート」は、野菜や肉、ご飯に、豆のスープをかけて、混ぜながら食べる料理。ネパール人はこれをほぼ毎日食べる。ヘルシーかつスタミナ抜群の料理だ。その他、「モモ」と呼ばれる餃子も、ネパール人がよく食べる料理。作り方も形も日本のものと似ている。肉料理も出てくる。高所で荷物運びとして活躍する「ヤク」と呼ばれる動物の肉がステーキとして出てくることもあった。その他、パスタや、チャーハン、ピザ、アップルパイなど、ありとあらゆる料理がでてきて、飽きることがない。
《 ヤクの肉、料理中 》
現在では、食事をするダイニングテントと言えば、テーブルとイスを置く「洋風スタイル」が主流なのだが、この時のチョー・オユー遠征では、地べたに座って食事ができ、寝そべることもできる「日本スタイル」にしてもらった。そこでは、食事はもちろん、皆でトランプをしたり、ミーティングをしたり、昼寝をしたりできる、とても快適な空間だった。寝るテントは、仲間と2人で共有した。ぎゅうぎゅうで寝れば4人は寝られるテントだが、荷物もあるため、2人でちょうどいいくらいのスペースだった。現在のヒマラヤ高所登山では、1人につき1つのテントを与えられるのが主流だが、当時はそのようなスタイルだった。時には1人でゆっくり休みたいときには、私がコミュニケーションテントで寝たりと、できるだけリラックスできるように配慮して過ごした。
リラックスできる場所があるというのは、高所登山ではとても大事なことなのだ。ストレスから頭痛や体調不良を引き起こし、高山病発症に繋がってしまう。精神的ケアが高山病予防として、とても重要な役割を果たす。朝になると、キッチンスタッフが私たちの寝ているテントにやってきて、温かいお湯と、あつあつのおしぼりを持ってきてくれる。そして、「Tea? or Coffee?」と尋ね、テントまで持ってきてくれるのだ。ここはホテルなのか、と思わせるほどの、手厚いサービスに感激の毎日だった。
ベースキャンプへ到着して2日後、ラマ教の儀式「プジャ」が行われた。ラマ教とは、チベットを中心に発展した仏教の一派で、私たちのガイドを務めるネパール人シェルパ族も信仰しているものだ。この「プジャ」を行わない限り、ベースキャンプから上へは誰も足を踏み入れることはできない。「無事に登頂できますように」と祈る、とても重要な儀式なのだ。
これにはラマ教の僧侶が必ず必要で、なぜかいつも、スタッフの中に僧侶の資格を有した者がいる。自分たちの隊に僧侶がいない場合は、他の隊の僧侶をレンタルしてくる。それでもいない場合は、下の村から来てもらう。今回は別の隊からの「レンタル僧侶」だった。僧侶がお経を読みおわった後、米や「チャンパー」という粉を手に持ち、皆で投げる。手に付いている粉を互いの顔に塗りあう。
《 プジャで「チャンパー」を投げる場面 》
その後、お神酒がわりのお酒を飲む。僧侶から、お守りのペンダントを付けてもらったり、ラマ教の布を首からかけてもらったりする。晴天の日に行うのが理想だが、この日は曇りだった。
次回はいよいよハイキャンプへ出発。登頂アタック出発編。
1981年福岡県大野城市生まれ。3歳より登山やサバイバルキャンプを始め、アジアの子ども達と海外登山や冒険キャンプをするようになる。小4で初の雪山登山に魅了され、中1で初めてパキスタンの4700m登山を経験。日本人女性初8000m峰8座登頂、日本人女性初世界トップ3座登頂他多数。現在は、アジア人女性初8000m峰全14座登頂を目指す。これはあくまで通過点であり、その先にあるもっと大きな夢に向けて様々な活動に取り組んでいる。
■ 2022年 1/15〜3/31 初の個展となる、【 渡邊直子展〜8000峰18回登山の軌跡〜 】開催中。