【植物トリビア】親元は危ない?ジャンゼン=コンネル仮説

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複雑な木々の子と親の距離感

突然ですが、木々の子供(※)を観察してみてたことはありますか?

木々の子供は、小さくて可愛くて雑草と見分けがつかないくらいに弱々しいのです。木々の子供たちは生まれた地点と親元との距離感が複雑に関与する戦いに問答無用で参加させられていることをご存じの方は少ないでしょう。公園や空き地など、森林は意外と身近にあるものですが、今回はそんな木々の子供にまつわる「ジャンゼン・コンネル仮説」という仮説についてのお話です。

※樹木の小さな子供のこと=実生(みしょう)

ジャンゼン・コンネル仮説

樹木は種子を作りその種子を子孫としてあらゆる手段で散布することより広範囲に数多くの仲間を増やそうとします。これが何の制限もなく行われていれば、今日の生態系はもっと違うものになっていたでしょう。しかし自然は仲間を増やすことに対してYESとは認めてくれません。そんな繁殖に関する制約や制限の一つとも取らえることが出来るのが、このジャンゼンコンネル仮説です。

概要からザクッとお話しますと、「親木の周りには、その親木を狙わんとする様々な敵が集まることから親木から離れた実生のほうがより生存に有利になる」というのがこの仮説です。ではこの原理や例外、これに関する自然の法則を、細かく説明していきましょう。

狙われる親

枝の向きやミリ単位のズレを除き、樹木は自身の意志で大きな移動をすることができません。このため、ある程度の年数を生きた樹木の周囲には、その樹木を生活の糧とするあらゆる生物が集まります。具体的には、その樹木を特異的に好む病原菌や菌類、その樹木そのものを餌とする昆虫類や鳥類、哺乳類などのあらゆる生物です。木の実を狙う鳥、樹皮や葉を狙うシカ、幹や根を狙うキノコ(※樹木を分解することにより生きるキノコを腐生菌といいます。)など、森林は樹木にとって天敵まみれなのです。

囮としての親

上記の事実を別の捉え方をすると、それは親から離れれば天敵は減るということなのです。親が囮(おとり)になってくれるのです。実にシンプルな仕組みです。このため、子は親から離れれば親を狙う天敵の流れ弾を食らうことはありません。

親と子に空いた”スキマ”の意義

親元に生まれたが故にすぐに死んでしまった実生の場所には、何も居ない場所というのが出来上がります。このままでは親の近くだけハゲたいびつな森が出来上がってしまいますよね。このスキマこそが、他の種類の樹木が入る場所になるのです。親木に集まった天敵は、他の樹木には影響が少ないことがあります。それはそうでしょう。生き物みな食べるものに好き嫌いがありますから。唐揚げが大好きでトマトが苦手な人の前に、唐揚げとトマトを置いても食卓から消えるのは唐揚げだけです。このスキマに異種が入り成長していき、またその異種の下のスキマに別の種が入り、そしてその各々に三者三様の天敵がまとわりつき、こうしてモザイク状に森林の多様度が上がっていきます。ジャンゼン・コンネル仮説とは、森林における木々の多様度を司る法則を解き明かさんとする有力な仮説のひとつなのです。

親元が有利になる場合もある

写真 ) 外生菌根菌「タマゴタケ」

では、この仮説は絶対なのかといいますとそうではありません。そこで登場するのが「菌根菌」と呼ばれるキノコの存在です。

菌根菌は、多くの植物種と密接な関係を持つことで知られ、その重要度は植物が進化の過程で陸上に進出するのに役立ったとされる謂(いひ)われがあるほどです。菌根菌は、特定の植物の根っこに菌根と呼ばれる組織を作り、その菌根を介して栄養素の交換を行うことで生きるキノコです。樹木もまた菌根との栄養の交換により成長に有利になることがあるということが知られています。勝手に身体の一部に融合されて、その融合体を介して物々交換をされ、結果両者お得になるという見事に都合のいいヤツです。菌根もものすごく奥が深く、まだ分かっていないことも多いですが、本記事ではこれくらいにしておきます。具体的には、松茸やトリュフなどがそれに該当します。

親と共生をしている菌根菌の菌糸は、もちろん、親元に多くあります。この例外にあたるのが、子が親に近い場所に生まれることにより、生涯の早い段階で菌根を形成することができ、成長に有利になるということなのです。さらに、この菌根菌は、地下で菌根を介してつながっている植物間の情報伝達の役割を持つこともあり、樹木が特定の防御反応を示した際にそれを他の樹木に促すかのような反応を起こすこともあるようです。

とにかく不思議な森

ジャンゼンコンネル仮説に関するお話を少しだけしましたがいかがでしたか?これは、あらゆる複雑な事象が絡みあいカオス状態にある森林のごくごく一部のお話です。もちろん、まだ分かりきっていないことも多く、まさに森は「神秘の森」なのです。このことを少し意識しながら街中の木々を眺めてみると、何か面白い気付きがあるかもしれませんね。

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