熊野古道旅情紀行 06

アウトドア

朝の太陽の光を見た時、本能的にあぁ助かったと思ってしまった。この世には、今の世界とは違う世界が存在していて、それが交錯するのが道なのかもしれない。特に、昔のそのままの姿で今の世界まで残り続けている古道には、当時の人々の想いがそのまま残っていて、その想いが強ければ強いほど空間に残り続けるのかもしれない。それほど強い想いとはなんだったのだろう。足早に支度をし、すぐに出発した。

中辺路の請川から小口までを小雲取越と呼ぶ。特に大きなアップダウンもなく、ただひたすら森の中を進んだ。所々に歌碑が置いてあり、読みながら進むのは楽しかった。太陽の光も綺麗に森の中に差し込んできた。昨日の夜とあまりに雰囲気が違うので、改めて山は奥が深いと感じた。百間ぐらからは全ての山々を見渡すことができた。

朝の新鮮な空気を吸い込み、思いっきりヤッホーと叫んでみた。体の隅々まで綺麗になった気がした。この道は、雰囲気のある賽の河原地蔵や開放的な桜茶屋跡など、見どころが沢山あった。小雲取越の最後の長い坂をトントンと駆けるように下り、お家の庭のような場所を通らせてもらい、小口に到着した。大きな川を渡った先に小和瀬渡し場跡という休憩所があったので長めの休憩をとることにした。

歩き始めて5日目。共通巡礼手帳のスタンプがどんどんたまってきた。この休憩所には綺麗なトイレや東屋、さらにはWi-Fiもあり、旅人にとってはオアシスのような場所だった。水を汲み、行動食をたくさん食べ、ベンチに寝転んで充分に休憩を取ったあと、大雲取越に向けて歩き始めた。ついに、「那智」と書かれた看板を拝むことができた。

とても暑くなってきた。小口は標高100mに満たない低い場所なので、昨日までとはまた違う、蒸し暑くのっぺりとした空気が流れていた。大雲取越の登山口を入ってすぐに登り坂が始まった。容赦ない石畳の急登。風が全くなく、ただ左右前後から暑い空気が流れてきた。水を飲んでもすぐに喉が乾いた。楠の久保旅籠跡の手前に水場があった。

蛇口をひねるとキンキンに冷えた冷水がこれでもかというほど出てきた。たまらなくなって、顔を洗い、髪の毛も洗った。頭が涼しくなり、視界が今までにないほどクリアになった。こんなに緑が美しい森を歩いていたのかと、改めて周りを見回した。気持ちよくて何度も何度も水を浴びた。ものすごくはしゃいでいる姿を通りすがりの登山者に目撃されてしまい、恥ずかしくなったがそんなことは気にならないくらいの素敵な水場だった。

しかし、水場を過ぎてからが大雲取越の本番だった。全く終わりの見えない石畳の急登。足元はツルツルと滑り、登りにくかった。登っても登っても終わりが見えなかった。昔の人はこんなに急な尾根上に、どうして直登で登るような道を作ったのだろうか。一段が大きく、私の歩幅に合わない。現代人の私でも高いと感じる石段をよく作ったものだ。まさに歩く修行だった。

考え事をするような余裕はなく、ただ上に、上に、足を上げて進んだ。やっとの思いで一番高い越前峠へ。標高は1000m近くあった。直登で1000mも登ってきたのだ。峠に着いた時、もうやめてくれと思ってしまった。峠に着いたあとすぐに急な下り坂が始まった。何のために登ったんだと、つい言いたくなってしまうほどの急な下り坂だった。そんなことを言ってもしょうがないのはわかっているのだが、どんな理由があって昔の人はトラバースせずに峠の上まで道を延ばしたのだろうか。

その後、ようやく地蔵茶屋跡まで辿り着いた。自動販売機でエナジードリンクを買い、綺麗なトイレに行き、休憩所で流れる川を眺めながら休んだ。あと1時間半ほどで「景色が綺麗」と地図に書いてある舟見茶屋跡まで辿り着く。休憩所の椅子に根っこが生えてしまい、なかなか立ち上がれなかったが、最後の一踏ん張りで先に進んだ。

登ったり下ったりを繰り返した。歩くのに夢中になっていて気が付かなかったが、「亡者の出会い」という場所を通過したらしい。通過してから地名を知ってよかったと思ってしまった。あまり良い気分のしない電波塔を通り過ぎ、この日テントを張る予定だった舟見茶屋跡に到着した。ついに、青くて大きな海が見えた。紀伊半島の真ん中から歩き、やっと海が見える場所まで来ることができた。

毎日毎日ただひたすらに歩いていたが、こうやって目標のものを目にすることができると、本当に歩いていたんだという実感が生まれた。テントは海が見える場所に張った。テントに入り、一休みしているととてもお腹が空いてきた。あまりにも歩くことに集中し過ぎて、昼ごはんを食べることを忘れていた。これには自分でも驚いた。

まずパスタを沢山茹でて残ったソースに絡めて胃に流し込んだ。それでも足りず、乾燥野菜を戻して焼きそばに入れて平らげた。お腹にご飯が入ると体が暖かくなり、やっと落ち着いた。日が落ちるまでテントの入り口を開けて海を眺めたり日記を書いたりして過ごした。明日は熊野那智大社と熊野速玉大社に行き、ついにゴールする。明日の夜はホカホカのシャワーを浴び、美味しいものを食べ、フカフカのお布団で眠る夜が待っていると考えるだけでソワソワしてきた。

この日の夜も、道の上を、何かが歩いていた。

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