これからも山を歩く

アウトドア

登山を趣味とされる皆さまは「仲間と登る派」ですか?それとも「単独派」ですか?

また山へのアプローチは楽しくがモットーの「ラクラク派」か、高みを目指す「ガンバリ派」なのか、体力や年齢、他の趣味との兼ね合いなどでも変わってきますね。

山を趣味とする人のSNSなどを見ると「山友」さんや「山仲間」さんが欲しいけど、なかなか難しいと言う方も多いようにも感じます。私について言えば、誰かと予定が合えば楽しみたいという感じで続けてきた趣味でした。今年は少しハードルを上げ、企画した山行を夫や友人に付き合ってもらったり、募集していたものに参加したり、ソロ登山にも挑戦した一年でした。とは言え初級~一般レベルの域は超えられていませんが、主体的に取り組んでみて、改めて「山っていいな」を実感しています。

この夏参加した山行には「山岳保険の加入」が条件として推奨されていました。恥ずかしながら、私はこれまで山岳保険に加入していませんでした。ツアーとして募集されている登山ではなく、あくまで一般のコミュニティーの企画でしたので、リーダーの方に負担をかけないためにもとあわてて加入して参加しました。その山行は予定時間より遅れてしまったこともあり、目的地に行かないで引き返すことになりましたが、リーダーの方の決断を目の当たりにして、これまでの登山を振りかえるきっかけともなりました。今年ふたつのソロ登山も経験しましたが、この時に加入した保険をお守りにできたところもありました。

新田次郎著作の「孤高の人」という山岳小説があります。実在の人物がモデルになっているという有名な小説ですが、これを読むとどうしてここまで高みを目指すのかという気持ちと、高みを目指せば目指すほど「孤高の人」になっていく主人公のすごみに圧倒されます。自分の脚と目では見ることのできない景色の描写にも惹かれました。

燕岳から槍ヶ岳を目指す主人公は、西岳小屋へ至る稜線で激しい雷雨に見舞われます。やむなく燕山荘に戻ることを決意しますが、暗黒の中にたけり狂う風と雷光・雷雨の襲撃に、死と隣合わせの状況を経験します。日本アルプスの稜線で、ひとり生死の境を歩いていると、やがて雨風が鎮まってきます。天と地の境界線が区別できるようになり、やがて天の一角に星が現れ、急速に彼の周りに星空が広がっていきます。この情景を、小説では親しんだ神戸の山で見た星空と比較しながらこう表現しています。

神戸で見た星は、空にあった。空という平面に投影された星であった。が、いま彼の見ている星は平面図上の星ではなかった。星は彼を囲鐃

(いにょう)していた。星の中に彼はいた。空間にばらばらと存在する星の中に、その一つの星のように彼は存在しているのである。―中略―その一つ一つが手のとどきそうなくらい身近に輝いていた。

夜の高山でこぼれそうな星空に息をのんだ経験がある方も多いと思います。一緒に登った仲間とその感動を分かち合った方もいるかもしれませんね。過酷な生死の境界線を経て、彼を囲んだ星の輝きとはどんなものであったのか、孤高ゆえにその輝きを想像すると圧倒される個所です。ひとりで見た星空でも、誰かと見た星空でも、特別な景色には変わりありません。山にある時はその時の自分の心を投影して輝くでしょうし、地上に降りた後もずっと忘れられない星空となるでしょう。

私は11月に単独で九州の山に登り、足場に注意が必要な個所で人の声がけがありがたかったり、下山中の平坦な道でルートを間違えてひやりとするという経験をしました。登山を趣味にするのなら、一度は単独行動を経験することをおススメします。私はこの山行で山に対して研ぎ澄まされていく感覚を味わうことができました。またこれまで登山計画をおぜん立てしてくれた同行者へ感謝の気持ちも湧きました。

登山はこれからも続けていくことと思います。今後は年齢的な体力の変化や、社会的な事情などで、山へのアプローチやステージは変わってくるかもしれません。山を歩く自分の身体に変化を感じたり、山に行ける環境に感謝を感じたりするようなこともあるのかなと想像します。

今後どのようなお付き合いになるのか、少し不安も感じながら、でも山に力をもらうことも沢山あるのでは、と楽しみな気持ちを持ち続けていきたいですね。

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