変わった特性を持つ森の植物
皆さんこんにちは。突然ですが、この記事を見ている方の中に、下の写真ようなモノを登山中に目撃したことがある方がいることでしょう。そしてすかさず「山_白い植物_棒」などのキーワードでネット検索したのでは?(違ったらすみません(汗))
森に生えるこの白い棒のような、ムーミンの某キャラにも似ているコレですが、実は植物です。しかも、かなり変わった特性を持つ森の異端児です。この植物の名前は「ギンリョウソウ」または「ユウレイタケ」といいます。
植物なのにアレを持たない?!
森や植物の絵を書く時には、主に緑色を使いますよね?それは植物が【緑色】だからではないでしょうか。植物は【葉緑体】という緑色の組織を持ち、これを用いて空気中の二酸化炭素を固定することで生きる。このことは小学校でも習った内容なのでご存じの方もいらっしゃるかと思います・・が、この写真の植物はおわかりのように【白色】です。ここがギンリョウソウの魅力であり摩訶不思議な部分です。この部分が白いというは、植物なのに葉緑体を持たないということになるのです。ではギンリョウソウはいったいどこから栄養を得てその体を作っているのでしょう?
答えは、「キノコの仲間を介して栄養を得る」です。
ギンリョウソウを始めとする多くの植物は、菌類(※きのこの仲間)である【菌根菌】と呼ばれる生物と根の一部を融合させた菌根という組織を作ります。また通常、植物と菌根菌は養分の交換を行う相利共生の関係にあります。しかし、ギンリョウソウは葉緑体を持たず、菌根菌に対して養分を送ることができません。一方的に菌根菌から養分を受け取るという、半ば片利共生のような形を取っています。このように生きるための栄養素の補給を菌類に依存している植物を「腐生植物」または「菌従属栄養植物」と呼び、ギンリョウソウはまさにこれにあたるのです。※腐生と付いていますが他の植物を腐らせるというわけではありません。
この菌従属栄養植物は、世界におよそ880種類ほど存在しているようです。意外と多いと思われるかもしれませんが、名前がつけられた植物が27万種いるうち880種です。たった0.3%ということになります。
葉緑体を持たないことは“凄い”こと。
先程の説明の通り、この菌従属栄養植物は先述の通り葉緑体を持っていないがために菌根菌から栄養を受け取っても菌根菌に返すものが何もありません。要は、ヒモです。これがどれくらい摩訶不思議なことなのか、進化の歴史とともに大雑把に説明します。
「細胞内共生説」という言葉を聞いたことはありますか?
我々動物は、呼吸(息を吸って吐く)ことが必要です。それは、細胞のミトコンドリアという部分がエネルギー代謝の根幹を担っているからなのです。これは逆に言えば、我々はミトコンドリアなしでは生きることができないということになります。
また、植物は同じようにして細胞の葉緑体という部分で代謝の一部を行います。
これら「ミトコンドリア」や「葉緑体」という細胞小器官は、はるかかなた太古の昔、我々や植物とは全く違う独立した微生物でした。ミトコンドリアは好気性細菌と呼ばれる生物の一種、葉緑体はシアノバクテリアと呼ばれる生物で、これらが何かしらの要因で遠い先祖の体内に共生し、20億年以上にもなる長い年月をかけて今の植物や生物があります。これが「細胞内共生説」です。
この細胞内共生はまさに、今の私達生き物が生き物たるふるまいができるようになる鍵となるような革命でした。しかし、ギンリョウソウはこれを捨ててしまったのです。人間からミトコンドリアをなくしたら筋肉は動きません。なので、この超〜大胆な進化はとても“凄い”ことなのです。
ギンリョウソウを探してみよう。
進化のロマンとその変態とも言える生態。シンプルに「凄い!(地球って)」と感じる事ができる植物なのです。筆者は、ギンリョウソウを山で見かける度に地球の歴史を感じて楽しくなります。そこで次に「ギンリョウソウ見たことがない!」という方々へ向けて、ギンリョウソウを見ることができる場所や時期を解説していきます。
時期
ギンリョウソウを見るには時期が大切です。植物体を見せてくれる時期は、6月上旬~7月上旬と初夏の短い期間に限ります。この期間(時期)限定というワードがギンリョウソウを発見したときの大きな喜びの一つでもあります。
場所
ギンリョウソウの生息地を調べてみると、日本全土に分布していることがわかります。が、「山地のやや湿り気のある場所」とイマイチな情報が多いです・・・。「おいおいっ!ピンポイントで教えてくれよ!」という方もいることでしょう。ですが確かに上記の通りに探してみると、意外と発見できるものです。
筆者もこれまでにギンリョウソウを見た場所がいくつかありました。
・八ヶ岳
・南アルプス
・朝日連峰
・奥多摩
・奥秩父
等があげられます。
発見できるポイントは、「森の地面で白色を発見したらとりあえす近づく」です。森の中で白色の植物といえば「カラカサタケ」のような白いキノコか、「ギンリョウソウ」か・・あとは「ゴミ」くらいでしょう。まれに土の中にいるギンリョウソウの姿を拝むこともできますよ。
(写真:6月上旬の朝日連峰某所で撮影。本記事で使用しているギンリョウソウの写真はこの山で撮影しました。)
ただし、ピンポイントで特定の生物の居場所を公表するのはあまり良いことではありません。貴重な種が生息する場所は秘密にするのが吉です。観賞用やオークションなどあらゆる目的で乱獲や盗掘が行われることが多々ありますのでご注意下さい。
最後に
森の中ではあらゆる面白い地球の歴史を感じることができます。今回のギンリョウソウはそのほんのごく一部ですが、もし山の中で見かけたら、ぜひその進化の糧に思いを馳せてみてください。我々生き物の根幹たる20億年前の細胞内共生を捨てた880種の変態のうちの一つがそこにいます。
&Green 公式ライター/ webクリエイター
幼い頃から自然と親しむことで山の世界に没頭し、大学時代は林学を学ぶ傍らワンゲルに所属。海外トレイル、クライミング、ヒマラヤの高所登山から山釣りまであらゆる手段で山遊びに興じながら株式会社アンドに勤務する。&Green運営・管理を担当。最近は「10秒山辞典」なるものを作成しているとか。