John Muir Trail -ある夏の私の旅- 【7日目】

トレイル

8月28日【Day7  Mono Creek Trail → Halfway point手前 25.1km/164.0km】

この日は、人に会うことがなかった。最初のBear Ridge Trailまでの登りを、ゆっくりと登る。道が狭く、うっそうとしていた。前日に通ったハイカーの足跡が下に細々と残っている。8km水場がないそうなので、水をいつもよりも多めに持った。

たくさんの美しい湖を横目に、足を進める。この日は何度も川を渡った。

途中で休憩をする。休憩をするところは決まって景色の良い場所と決めている。ザックを下ろし、水を飲む。ザックにもたれかかって、のんびりとする。

お昼の時間になって、私が取り出すのは羊羹と塩分タブレットのみ。だんだん慣れてきて、それだけでもつらくはなかった。その日食べる分を、朝出発するときに小さなショルダーバックに入れておく。これが習慣になった。


山からの冷たい水が気持ちいい。大きな石がごろごろしている道を歩き、今日越えなければならない峠が徐々に見えてきた。湖の横を通る一本の道。これをずっと歩けばゴールにつながるのだ。そんなことを思いながら、峠に向けて登る。

ここも素晴らしい峠だった。4つ目、ここで、反対からきているハイカーに出会った。Mt.Whitneyからスルーハイク、つまり私と同じようにすべてを歩いているらしい。

スルーハイカーは雰囲気が違う。どこか、遠くを見ているような、ここにはいないような雰囲気を感じる。虚無とでも言えばいいだろうか。では果たして私は、そのような雰囲気をまとっていたのだろうか。

峠を越えると下る。登ったら下ることは当たり前のことではあるが、それが頑張れる理由であるような気もする。アメリカの空の青さは深い。吸い込まれそうになる。それを反射する湖と空に挟まれた大地に一人でいると、自分の小ささが怖くなる。

今ここで死んでもたいしたことではないようにさえ思う。峠の上に立つと、そのあまりの大きさに立ち尽くす。今まで通ってきた道が、はるか向こうに小さく細く見えた。

あそこを歩いてきたのか、よく歩いたな、と我ながら思ってしまうほどだ。

分岐では、必ず地図を確認する。根っからのアナログ派なので、携帯のGPSが正しい方向を指していても、地図で確認しないと気が済まない。

この分岐にあった看板は、一風変わっていて、木でできていた。トレイル上のほとんどの看板は、雨風に当たって茶色くさびた鉄製の看板である。

この日はもう少しでトレイルの中間地点というところでテントを張った。

ついに明日半分を超えるという嬉しさと、7日目にして半分まで来てしまったという驚きが混ざる。誰もいない、とても静かな場所だった。木々の間から差し込む光はずっと眺めていられる。近くの川の音も絶えず聞こえてくる。木の上で服を乾かす。

昨日の雨のせいで、木が湿っていて火をおこすことができなかったのでガス缶を使う。そろそろ一缶なくなってもいいのだが、まだ重い。毎日の朝ご飯と、焚火ができなかった時の夕飯にしか使っていなかったので、ガスは余裕で足りた。

ひとりで旅をしているとき、いつも頭が英語になる。スラスラと話せるわけではないのだが、誰かに言われた言葉や自分がしゃべった言葉がグルグルと周り、考え事も気づいたら英語でしていることが多くなる。

不思議だと思うが、言語とはそんなものだろう。今回のトレイルは頭の中がうるさいほど英語だった。

この日、一度歌いながら歩いたが、空気が乾燥していたため、一瞬で喉がやられた。

ゆっくりとした時間を過ごした。ほかの人に会わないということに慣れていた。トレイル上で人に会わないのが心地よいと思うまでになった。

ただ少し、日本に住む山の仲間たちに会いたいなぁ、なんて思ったりもした。登頂したら、何を思うのだろうか。340km歩いて終わったら、どう思うのだろう・・・。

その日を夢見て明日も歩こう。

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