ヒマラヤ徒然草第二回:「ラダック人」というインド人

ヒマラヤ徒然草

ラダックにて

冒頭の写真はマルカ渓谷の入り口だ。

この谷奥には氷河が存在するのか?と想像してしまうほどの広大で美しい景色とブラウン一色の世界だった。すぐ真上にある太陽の日差しが、容赦なく我々を照らしてくる。これほどまでに荒涼とした場所は見たことが無い。地という単語そのままの風景だ。見渡す限り、どこもかしこも岩だらけ。ここに、はるか昔から住人が居ると言うのだから驚きだ。彼らの祖先は、いったい何を思ってこの場所で生きていこうと考えたのだろうか。また、その子孫たちは何故ここから逃げ出さず住み続けるのだろうか。そこには、私には理解が及ばない彼らなりの生き方があるのだろう。と、私は胸を膨らませる。

いつもそうだ。こういった未知の場所に入るとき、私の中に在る期待と妄想が、旅の最大の原動力となるのだ。こうして谷での旅が始まった。

私たちがジープを降りた場所はスキウと呼ばれる場所だった。村も何もない。まるで地名だけ置いてけぼりにされたような場所だ。名前の無い街と聞けば何となく想像がつくが、何もないところに名前だけが在るということは、なんだか素敵だ。私はこういったどこか疑問を抱く事柄や、妄想が広がっていく感覚に面白さを感じる。この感覚が大好きなのだ。その点、私が旅をしていて面白いかどうかは、景観や歴史のみならず私自身にも大きな影響があると言える。

ともあれ、初日はこのスキウから7km先にあるチリン村を目指したのだった。この旅では、ラダック人の村に初めてお邪魔させていただく。そもそもラダック人とは何者なのか?という話だが、一言でいえばチベット系の少数民族だ。彼らラダック人は、チベット仏教徒が大半であり、その文化もチベットと共通するものが多い。言語はラダック語と呼ばれるチベット語の方言だ。

私は、文化人類学者ではないので詳しい説明はできない。ただ、私がその場所に赴いて分かったことを元にいえば「とても逞しい人たち」だということ。

旅というものを始める前、また、始めたての頃は「少数民族」という単語にドキドキしたものだ。男というものは、いかにも探検家らしい単語に憧れている。少数民族という響きから、アマゾンの先住民のような印象を受ける人は多いとは思うが、実際はもっと身近な人たちだ。

さっそく歩き始め、私たちは渓谷の谷底まで降りた。

谷底には遠くの氷河から溶け出した水がマルカ川となって流れており、ラダック人たちはその川に沿うように点々と小さな集落を作っているようだった。これが世界的に有名なあのインダス川の源流の一つだという。谷の上に居たときには、とても人が住めるような外見ではなかった。しかし谷底の川沿いは、砂漠のオアシスのように草木が茂っていた。(※下記↓写真参照)マルカ渓谷のラダック人たちはこの恵みを受けて生きているのだろう。

意外だったのは、同じ隊のインド人も私と同じ感覚だった点。ワクワクするような冒険心を抱いていたのだ。文化は違えど彼らは同じ国。本土に住む日本人にとっての沖縄程度の認識だと私は勝手に思っていたが、まるで母国から遠く離れた辺境の地を見るかのようなキラキラした目をしていたのだ。そこで私は、同じ登攀小隊のドゥルフという女性に聞いてみた。

「ラダック人も言い方を変えればインド人じゃん?それでも全然身近じゃないというか、新鮮に感じるものなの?」

「そうね、一言で伝わるかしら?インドは物凄く広いから。」

…分からなくはないが、いまいちピンとこない。表情に出たのか、私の顔を見たドゥルフは続けてこう言った。

「ラダックに限った話じゃないわ、インドってごちゃごちゃなの。数十キロ距離が離れただけでまるで別の言語を話してるんじゃないかってくらいギャップがあったり、それが数百キロともなれば海外のようなものよ

何度か耳にしたことはあるが、当事者であるインド人の口から直接聞いたからなのか、とても説得力があった。

「みんなそれぞれの文化、言語に誇りを持っていることが多いからみんなを同一視して扱うとあまりいい気はされないかもしれないから気を付けてね」

「では、ラダックは完全に異国ということ?」

「そうよ、私はボンベイ(現ムンバイのこと、彼女たちは未だにボンベイと呼ぶらしい)に住んでるの。直線距離でいえばここから約2000kmよ。それってここからシリアやトルコと同じ距離よ。そう考えると納得しない?」

「うん、そうだね。」

私は、納得の返答をすると同時に、彼女との会話を通して、旅をしている仲間が私と同じ感覚でいることに喜びを感じて嬉しかった。

インドは大きい。

当たり前のようで意外な認識の違いは面白い。思えばこの場所は元々ラダック王国、かつてはチベットとも対立した一つの国だったのだ。のどかな景観とは裏腹に、戦乱に耐えない歴史を持ち現在もそれが続いている。マルカ渓谷はそれでも戦の面影を見せない辺境の要素と静けさを持ち合わせていた。

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