■登山データ
御岩神社(320m)=表参道⇒かびれ神宮(400m)⇒尾岩山頂上(530m)=裏参道⇒薩都神社中宮⇒御岩神社
『常陸風土記』(721年)には御岩山に関する記述があります。
-清らかなる山かびれの高峰(御岩山の古称)に天つ神鎮まる。
日本には各地に霊山と呼ばれ、山岳信仰の対象となった歴史のある山が多数存在します。日本一有名な霊山と言えば、日本最高峰を誇る富士山ですね。しかし低山であっても古くから、神々の宿る神域とされ、地元の人々に大切にされてきた山があります。今回はそんな茨城県日立市の御岩山をご紹介します。
御岩山へのアクセスは車ならば常磐道から日立中央ICで出て、車で10分程度のところにあります。参拝者用の駐車場が4ヶ所ありますが、メディアに取り上げられたことによる近年の人気で混雑する場合もあります。東京方面から交通機関を利用するなら、上野駅から常磐線の特急で日立駅まで1時間半ほどです。そこから神社行のバスもありますが(所要35分)、本数が少ないため、タクシーを利用すると便利です(所要20分)
全行程は1時間半ほど、登山というにはおこがましいのですが、ちょっと参拝というにも難所があり、動きやすい服と靴が必要な山です。そして大切なことなのですが、信仰の山として神域であることを忘れないようにしたいですね。悪天候時や午後3時以降の入山禁止などいくつか心得があります。
【 1:パンフレット参照 】
参拝道から山頂まで一帯は188ものあらゆる神々が祀られています。鳥居をくぐると、いたるところに小さな社が立ち並びます。それでもうるさい感じはなく、清らかで心地よく感じるのは、一帯を覆う苔の瑞々しさのおかげかもしれません。樹齢600年と言われる三本杉は参拝道のシンボルです。天狗が棲んでいたという巨木は触ってはいけないとされていますが、長い間人と共に歩んできた独特の気をまとっています。
【 2 ・3:参拝道・三本杉 】
一説によれば、淘汰されてしまう自然界ではここまでの巨木になることは難しいのだとか。何世代にも渡る人の手があってこそだと思うと、手入れの行き届いた端正な厳かさは、人と共に作り上げてきたのだと感じます。
御岩神社をはさんで左手の表参道から登頂します。マムシグサは山中でもよく見かけ、このあたり一帯で生育しているようです。
【 4:鎌首をもたげたようなマムシグサ 】
しばらくは緩やかな道を進み、徐々に根がはり出した傾斜を登っていきます。傾斜の向こうに御岩神社・奥の院、かびれ神宮が見えてきました。冒頭の『常陸風土記』には、「石を以て垣と為し…」と記されています。これはかびれ神宮のことを記したとされており、石造りの社に面影を見ることができます。岩には苔と一緒にイワウチワと思われる花が咲いています。一般的に知られる淡紅色の花びらではなく、純白なのが清らかな雰囲気ですね。
【 5・6:かびれ神宮の石段とイワウチワ 】
さらに進むと裏参道からの分岐点に到達しました。ここから頂上までは15分ほど、傾斜を登っていきます。途中に天ノ岩戸と呼ばれる巨岩がありますが、現在はそこに立ち入る道が立入禁止になっています。
かびれの高峰に到着しました。付近は大きな岩がごろごろとしていて、ふもとの苔むした光景とは異なっています。御岩山の名前は「水戸黄門」として知られる徳川光圀が命名したそうですが、この頂上の巨岩から名付けられたのでしょう。頂上から少し下ったところには「石柱」と呼ばれる細長い岩があります。(岩付近は立入禁止)こちらで熱心に時間をかけてお祈りしている若い男性が印象的でした。
【 7・8:御岩山頂上 】
下山は裏参道を通ります。途中にはひっそりと樹木と一体化したような薩都神社中宮があり、表参道のかびれ神宮とはまた異なった趣がありました。
【 9:薩都神社中宮 】
下山後に社務所で御朱印をいただきました。ふもとの御岩神社と奥院のかびれ神宮が対になった御朱印は、登頂した人だけがいただけます(自己申告制)
【 10:御朱印 】
御岩山は山岳信仰と共に神仏混淆の霊場として、人々の想いの場であり続けました。明治維新の神仏分離令を経てなお、神仏習合のユニークな信仰・特色を保ち、現在に至ります。
今回登頂してみて、ふもとの参拝道から続く一帯の雰囲気に魅了されました。神聖さというのは、もしかしたら人の気がつくるものかもしれないとも思います。御岩山では食事は禁止されているのですが、子供にもわかる注意喚起の看板にも目に留まりました。
【 11:看板 】
ルールはなぜあるのか、それを守る心を育てることこそ大切なのかもしれませんね。自然は時に厳しく、時に奇跡のような美しさを見せてくれます。日本各地にある霊山は、そこに心動かされ、多くの人が繋いできた気の場でもあると、今回の御岩山で感じました。

&Green 公式ライター
20代後半に連れて行ってもらった低山縦走コースで登山の楽しさに目覚める。一時期体調を崩したが、数年前から関東近辺の低山中心に日帰り登山を楽しむ。コーヒーが大好き。人生後半の暮らし方についてトライアンドエラーの日々。