9月2日【Day12 Glen Passの下の湖→Shepherd Pass Trailの分岐23.8km/305.4km】
朝起きたら、後ろの崖が大きな音を立てて崩れていった。銃声のような、岩が割れる音がして、そのあとすぐに大きく崩壊した。もう少し下にテントを張っていたら飲み込まれていたかもしれない。運命とは、こういうところで変わるのだろう。割と冷静に、さっき死んでいたかもなぁ、と考えている自分がいた。
出発してから、シカに会ったり、いろいろな生き物を見た。足が痛いのはもうどうしようもない。右足の足首も痛くなった。はるか向こうに見える大きな山と、その上に広がるきれいな空を眺めながら歩いた。
突然、雲が集まってきた。山の天気がすぐに変わるのはわかっていたが、こんなにも短時間で変わってしまうのか。雨が降らないことを祈りながら、峠への道を急いだ。
ポツリ、ポツリと何かが降ってきた。こんなところでやめてほしい。雨具を出して、前に進む。だんだんと強くなってくる。登っても、登ってもまだ着かない。しまいには、雷も鳴り出した。あとから思えば、ここで引き返すべきだったと思っている。だが、ほかのハイカーは、大丈夫、大丈夫と言って、峠から下ってくる。自分もハイになっていたのだろう。この天気で峠を越えることにした。まだ積雪が残っている道を迂回しながら、真上で鳴っている雷に、落ちませんようにと話しかけながら、峠を越えた。この日は特に、自分を違う生き物として扱っていた。何だか、今動いている自分は自分ではない気がした。
何とか無事に峠を越えた。ずっと雷は鳴っている。雷は落ちなかったらしい。ひとまず安心した。
下り始めようとしたとき、大粒のひょうが降ってきた。寒すぎる。途中で、雨とひょうが混ざって濁流のように地面を流れてきた。私の靴は穴が開いている。ほとんど裸足で歩いているようだった。最初の方から、もう足の感覚はなかった。まだ雷は上で鳴っている。
断崖絶壁を、ゆっくりと慎重に降りた。
途中何度も滑った。私の前を、6人組のハイカーが歩いているのが見えた。同じように滑りながらなんとか歩いていた。彼らが休憩しているときに追いついた。彼らが一緒に歩こうと言ったわけでもなく、私がそう言ったわけでもないが、気づいたら私は彼らのグループの中にいた。大荒れの天気の中、一緒に歩いた。彼らはとても楽しそうだった。「今日はすごい天気だけど、これはこれでいい思い出!!今日はいい日だ!」と言っていた。素晴らしい精神だと思った。大丈夫かと、自分のことを気にかけてくれた。みんな、私のボロボロになった靴を見て驚いていた。この靴は宝物だ。雨から逃げるように、7人で歩いた。目の前に雲のない場所が見える。雨も少し上がってきた。何とか、7人でテントを張れる場所までたどり着き、私は、久々に周りに人がいるところでテントを張った。
ピンクの服のおじさんとも、そこで再会した。いつも通り、「No resupply!!」と、遠くから叫んでくれた。彼も元気そうに歩いている。自然の中で、生き延びる人間は、だいたい心が元気な人間なのかもしれない。
テントの中で、ガス缶をつけ、びしょ濡れになったものを乾かす。許可証や、少しの現金が、もう少しで破れそうなくらい濡れてしまった。外がとても寒い。テントを張って、水を汲んだ後はずっとシュラフの中で過ごした。スキムミルクを溶かして飲み、夕飯を食べると一気に体が温かくなる。今日もたくさん歩いた。思い返せばすごかった。でも今生きていて、こうして息をしている。素直に、うれしい。
残りの日数を計算してみたが、あと2、3日で終わる。もうここまで来たか・・・。緊張する。改めて地図を見返すと、色々なところを通って色々なことがあったなぁと思う。この地図も宝物になるのだろう。
&Green公式ライター
大学時代に初めて一人で海外に旅に出たのを機に、息をするようにバックパッカースタイルの旅を繰り返す。大自然の中に身を置いているのが好きで、休日はいつも登山、ロングトレイル、釣りなどの地球遊び。おかげで肌は真っ黒焦げ。次なる旅を日々企み中。