熊野古道旅情紀行 02

アウトドア

5:00前に起きた。外はもう青白い。首に身代わり守りを下げ、買っておいた朝食を胃に押し込み、水を汲み、お世話になったゲストハウスを後にした。もう少し長く滞在していたかったほど素敵な宿だった。

ひんやりとした街の中を、駅まで歩いた。もう街の人々は動き出している。この忙しさから一刻も逃れたいと駅までの道を急いだ。朝一の電車は空いていた。和歌山駅から熊野古道の小辺路の玄関口である千手院橋バス停まで、電車やケーブルカー、バスを乗り継いで行く。途中で盛大にお腹を壊し、慌ててトイレにかけこんだ。乗る予定だったケーブルカーは行ってしまったが、次のケーブルカーは貸切だったので結果オーライ。空には綺麗な初夏の青空が広がっていた。

ついに小辺路の玄関口である高野山へ到着した。木造の塀が並び、年季の入った商店が軒を連ねていた。家からはるばる丸2日かけてたどり着いた。どうやら日本もまだまだ広いらしい。

今回はサンティアゴ・デ・コンポステーラとの共通巡礼手帳を事前に手に入れていたので、1個目のスタンプを観光協会で押した。真っ白な巡礼手帳にやっと息が吹き込まれた。この手帳がスタンプで埋まる時、どんな景色が見えているのか楽しみだった。

住宅地をぬけ、小辺路の一つ目の看板がある、金剛三昧院入口にやってきた。ここからついに小辺路だ。朝のまだ低い日が木漏れ日となって差し込んでいた。少し肌寒い空気がまとわりついてきた。水分をとり、行動食を食べ、ザックを締め直して、熊野古道の歩き旅が始まった。

最初は心地よい林道歩きだった。朝一の林道では、鳥たちが盛り上がりを見せていた。背中の荷物が歩くたびに左右に揺れ、トレイルに踏み入れたことを感じた。今回は、装備にアームカバーを追加してみた。歩き始めると段々暑くなってくるが、それでもまだ半袖になるほどでもないという気候の時に役に立つ。肌寒いと思った時に上まで上げ、暑くなってきたら手首に巻き付ける。疲労が溜まってくるとザックをおろして長袖を出し入れするのさえ億劫になってくる山ではなかなかいい相棒になってくれた。おまけに速乾性はピカイチであり、汗をかいても全く気にならなかった。

丁石を過ぎて赤い立派な橋を渡った。橋の下に流れる川はエメラルドグリーンの素敵な色で、周りの新緑に溶け込んでいた。その後車道に出たりまた山道を歩いたりを繰り返した。山の中に突然集落が現れ、昔ながらののんびりとした雰囲気につい昼寝をしたくなった。水ヶ峰分岐からは急登が始まった。ここは昔の集落の跡が残っていた。お椀や石垣が忘れ去られたようにポツンと残されていて、昔の人々の姿が見えてくるようだった。

一度、大股という集落に降りる場所があった。地図には自販機マークが載っていた。唐突にコーラが飲みたくなり、集落までの急坂をかけるように下った。出発からかなり時間もたって、初日ということもあり疲れが溜まっていたので山から集落に下れるポイントというのはありがたかった。

しかし、みんな同じことを考えるのだろう。コーラは売り切れていた。がっくりと肩を落とした。山の中で初日から人工物を見ることができるだけありがたいと思うことにしよう。大股集落は、中心に川が流れていて、水の音が心地よい場所だった。この日はトイレのない場所でテントを張る予定を立てていたので、最後のトイレにいき、日が傾きそうな中集落を抜け、最後の急登をゆっくり登った。

萱小屋跡に到着し、無事にこの日を歩き終えた。朝は和歌山の街の中にいて電車という人工物に乗っていたのに、今は車でもたどり着くのが難しいような山の中にいる。あまりに多様な一日で一週間分過ごしてしまったかのようだった。テントを立てる前にお米を水につけた。最初の夜のメニューはカレーにしようと思う。テントを立て、中に入ると1日の疲れがどっと出てきた。

まだ1日目。今後どんな体験をするのだろう。どんな景色に会えるのだろう。怖い思いだけはしませんように、と願いながら最初の日は過ぎていった。

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