熊野古道旅情紀行 03

アウトドア

朝は雨の音で目覚めた。突然やる気が無くなり、テントの天井をぼーっと見ながら雨の音を聞いていた。結局、7:00頃になってから起きてご飯を作ったり支度をしたりした。今回の旅の朝ご飯は、オートミールにスキムミルクと蜂蜜を混ぜたものを食べることにした。オートミールは体にとても良いのと軽量で持ち歩きやすく、調理も簡単なので今回の歩き旅から導入してみた。これがとてもよく、腹持ちが良かった。雨は、まだ止まない。鳥が鳴いていたら雨が上がる合図だと思っていたが、そうでもないらしい。これから登る坂道が濃いガスに覆われているのが見えて、朝からゲンナリした。

8:00過ぎに出発した。広い山道だったので、レインウエアに傘をさして上り坂を登っていった。ザーザー振りでもしとしと雨でもない、中途半端な雨だった。登りは段々と平坦になり、濃い霧が幻想的だと楽しめるくらいになった。突然、右側の谷の方から鈴の音が聞こえた気がした。木々の音だろうか。そうだ、ここは熊野古道だ。昔からの巡礼の道だ。昔の人がいてもおかしくはない。そう思いながらも正体がわからないというのは恐怖だった。

段々と雨が収まり、レインウエアのベンチレーションを閉じたり開けたりしながら歩いた。湿度が高く、水分が身体中にまとわりついてきた。周りは真っ白く濃いきりが立ち込め、一歩進むたびに少しぬかるんだ土の地面の香りが漂ってきた。スギの中のとても細い道を、俯きながら歩いた。昔の人も同じ道の上を、同じように悩んだり、怒ったり、嬉しがったりしながら歩いていたのだと考えるととても感慨深かった。会ってみたかった、知ってみたかったけど今はもう叶うことのないこの感情はどこかくすぐったく、そして温かくなった。茶屋跡、屋敷跡も昔どんな姿をしていたのだろうか。山の中に茶屋があるのを見つけて、「やっと着いたー」と私と同じようにホッとしていたのだろうか。

陶器のかけらが所々に落ちている急な石段を飛ぶようにくだり、伯母子岳登山口に出るとそこから先は車道だった。川沿いの小さな集落の中を、傘をさしたり閉じたりしながら進んだ。ちょうどお昼休憩にいい場所があったので休憩することにした。そこには自販機があり、勢いで冷たいエナジードリンクを買い、一気に飲み干した。久々の炭酸が身体中に染み込み、痺れるようだった。

生きてるって最高!歩き旅に炭酸は必須だ。

テント場に着いたときに飲むために2本目も買い、パスタを茹でて贅沢にパスタソースを絡めて食べた。いつも、歩くのに夢中になって昼ごはんは行動食を多く食べる程度で済ませていたので、たまには立ち止まってのんびりとご飯を楽しむのもいいなと思った。14:00頃には雨も完全に上がり、綺麗な空が顔を出してくれた。

吊り橋が苦手なので頑張って渡り、この日最後の急登に差し掛かった。長い。辛い。途中の水場でこれでもかというくらい水を浴びた。冷たい水は急登での最高のご褒美だ。段々と夕方になってきた。少し傾いた日に照らされるスギ林は、昼間の冷酷な表情から変わって穏やかな表情をしていた。雨の後だからか、オレンジがかった太陽の光とよく合っていた。その後も急登をぐんぐん登っていった。

景色が開いた場所で立ち止まると、今日出発した場所が遠くに見えた。この小さな足でよく歩いてきたものだ。歩いているときは実感がないが、この人間という小さな体はどこかに大きなエネルギーを持っているのだと感じた。

まだ着かない、まだ着かないと黙々と登り続け、ついにこの日泊まる予定だった三浦峠に到着した。やっと着いた嬉しさに思わず叫んでしまった。風が強いが景色が見えるところが良かったので、早速開けた場所にテントを張った。テントに入るとふと体の緊張がほぐれ、ぼーっとしてきた。

何とかこの日も無事に歩けた。ほっとした。

これまで色々と道を歩いてきたが、緊張せずに歩けた日はなかったような気がする。それはそれでしっかり危険を見逃さないように歩いている証拠なのだからいいと思っている。その分、テントに入ってホッと肩の力が抜ける瞬間が好きでたまらなくて、歩くことをやめられない。

この日ものんびりお米を炊いて辛口のカレーを作り、体が温まってポカポカしてきて眠くなってから寝た。日頃泥臭い社会の中で忙しく生活している日常から、シンプルで、本能的で、自分勝手に感情を揺さぶりながら歩く日常に帰ってくることができて嬉しかった。

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